セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

本セミナーでは,座長の飯島尋子氏,および今城健人氏,黒田英克氏,西村貴士氏の講演に続き,ディスカッションが行われた。 各講演の内容を踏まえ,SLD診療におけるATIの課題と今後の可能性などについて意見が交わされた。

2024年9月号

日本超音波医学会第97回学術集会ランチョンセミナー5 SLD診療における超音波検査の意義とATIの未来

Discussion:SLD診療におけるATIの課題と可能性

(座長)飯島:SLDの診断において,超音波Bモードは非常に有用ですが,脂肪肝の有無を客観性を持って診断することができないという課題があります。そこで,より正確な診断手法として,令和4(2022)年度診療報酬改定において,超音波減衰法検査による肝脂肪化定量が保険収載されました。SLDで慢性肝炎または肝硬変疑いの患者に対し,肝臓の脂肪量を評価するための情報を提供するものとして薬事承認または認証を得ている汎用超音波診断装置を用いて超音波減衰法にて非侵襲的に肝臓の脂肪量を計測した場合に,3か月に1回,200点を算定できます。
本ランチョンセミナーでは,超音波減衰法のうち,キヤノンメディカルシステムズのATIについて,MRI-PDFFをreferenceとした検討を今城先生,肝生検をreferenceとした検討を黒田先生,CAPとの比較による検討を西村先生に,それぞれご講演いただきました。ATIの診断能はCAPよりも良好との結果が示されましたが,BMIやSCDが大きい(皮下脂肪が厚い)症例では結果に若干のバラツキが生じていました。この点について,補足などはございますでしょうか。

今城:われわれは,MRI-PDFFとATIの結果がgrade 2以上乖離した,かなり極端な例について検討を行いましたが,SCDが大きい例では,ATIの値がMRI-PDFFよりも高い,あるいは低いといったバラツキが大きいという印象でした。原因についてはさらなる検討が必要ですが,MRI-PDFFも万能ではないので,鉄沈着の影響も考慮する必要があります。

黒田:ATI以外の超音波減衰法にも言えることですが,SCDが大きい場合や構造物がある場合では,多重反射によって減衰係数値に大きな影響を及ぼすため,測定ROIにその部分が含まれると良好な結果が得られないのではないかと推察しています。また,われわれは病理所見をreferenceとしましたが,肝線維化も減衰係数値がばらつく大きな因子でした。

西村:ATIは肝線維化進展例(肝線維化マーカー高値例)やSCDが25mm以上の場合は相関が低下し,また,MASLDに限定したサブ解析でも同様の結果となりました。SCDが大きいと多重反射の範囲も広くなるため,ROIをやや深めに設定する必要があるのかもしれません。(相関関係が)背景肝によらずATIが肝線維化の影響を受けるのは,ROIの設定位置に注意が必要であった可能性もあると考えています。

黒田:ATIの値のバラツキを考慮した上で,MRI-PDFFをreferenceとしたCAPとの比較においても,ATIは非常に良好な肝脂肪化診断能が得られていました。ATiMIC Studyでは改善点も明確になってきましたので,今後検討を進めることで,ATIによる肝脂肪化診断精度もさらに良くなっていくと考えています。
今城:例えば,病的肥満でSCDが30mmを超える患者において,ATIが高値であるにもかかわらずMRI-PDFFでは低い値となったケースや,その逆もありました。そのため,今後は各症例をより詳細に見ていく必要があると考えています。

(座長)飯島:ATiMIC Studyでは前向きに検討を行いましたが,今後は研究を基に多くのデータや論文の報告をしていただければと思います。本日はありがとうございました。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。

Discussion

 

飯島 尋子(Iijima Hiroko)
1983年 兵庫医科大学卒業。同年 同大学病院第三内科教室臨床研修医。1996年 同第三内科助手。2000年 東京医科大学第四内科講師。2003年トロント大学トロント総合病院放射線科客員臨床教授,トロント大学サニーブルック校舎医学生物物理学教室客員教授。2005年 兵庫医科大学中央医療画像部門助教授,内科肝胆膵科助教授(兼任)。2008年〜同大学超音波センター長,内科・肝胆膵科教授(兼任)。2023年〜同大学特別招聘教授。

今城 健人(Imajo Kento)
2005年 金沢大学医学部卒業。2012年 横浜市立大学大学院医博士課程卒業。2014年 同大学医学部肝胆膵消化器病学助教。2020年 同講師。2021年〜新百合ヶ丘総合病院消化器内科部長。2023年〜福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座特任准教授併任。

黒田 英克(Kuroda Hidekatsu)
1997年 岩手医科大学医学部卒業,同内科学第一講座入局。2001年 東京大学医学系研究科消化器内科研究生。2003年 岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科肝臓分野助教。2013年 Imperial College London, Department of Medicine, Hepatology, Research Fellow。2021年 岩手医科大学附属病院生理機能・超音波検査センター副センター長。2023年〜同大学医学部内科学講座消化器内科分野特任教授。

西村 貴士(Nishimura Takashi)
2001年 滋賀医科大学卒業。同年 同大学病院第2内科臨床研修医。2013年同消化器・血液内科助教。2015年 兵庫医科大学超音波センター / 内科・肝胆膵科講師。2023年〜同超音波センター センター長,消化器内科学(肝胆膵部門)講師。

 

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