セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第97回学術集会が2024年5月31日(金)〜6月2日(日)の3日間,パシフィコ横浜会議センター(神奈川県横浜市)で開催された。6月2日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー10では,川崎医科大学検査診断学内視鏡・超音波部門の畠 二郎氏が座長を務め,武蔵野赤十字病院消化器内科の土谷 薫氏と飯田市立病院消化器内科の岡庭信司氏が,「Aplioが拓く次世代ハーモニックの未来」をテーマに講演を行った。

2024年9月号

日本超音波医学会第97回学術集会 ランチョンセミナー10 Aplioが拓く次世代ハーモニックの未来

講演1:実践! 診断・治療に活かせる超音波検査 ~造影はもう難しくない~

土谷  薫(武蔵野赤十字病院消化器内科)

本講演では,造影超音波における技術の進歩について解説した上で,ほかのがんと比べて特異的な肝細胞がんの特徴とその治療戦略を説明する。さらに,キヤノンメディカルシステムズの「Aplio i-series / Prism Edition」に搭載されている超音波映像化技術「iBeam+」を用いた症例画像を提示する。

造影超音波における技術の進歩

Aplioには,2016年に優れたリアルタイム性と高分解能を実現するiBeam Forming,2021年にはさらに進歩したiBeam+が搭載され,Bモードでの高ペネトレーションで,高フレームレートな画像を得ることが可能となり,フルフォーカスにも対応した。2023年には,造影超音波にもiBeam+を適用できるようになったことで,位相変調法(PM法)でフルフォーカスが可能となり,2024年には振幅変調法(AM法)にも対応した。
造影超音波は,送信パルスをソナゾイドのマイクロバブルに照射し,振動や消失などによって生じるエコー信号を映像化している。前述のPM法とAM法は映像化の過程が異なるため,PM法では映像に組織ハーモニック信号が含まれるのに対し,AM法では含まれず,組織抑制が可能である。一方,PM法は組織抑制能が低く,Bモードで結節が周辺の組織よりも高エコーの場合,Kupffer相で欠損像がわかりづらいことがある。そのため,肝細胞がんの悪性度診断が難しく最適な治療法を選択しづらかった。Kupffer相での正確な診断も困難で,非多血性・EOB肝細胞相低信号結節の治療適応を判断できないという課題があった。
また,Bモードで結節が高エコーの場合,高音圧ドプラモードでの造影超音波が有用であるが,詳細なROIの設定が必要となる。そのため,初心者には困難であることに加え,高音圧によってバブルが崩壊してしまうため,再度造影剤を注入しないかぎり検査を終了せざるを得ない,といった問題もあった。
そこで,これらの課題の解決に有用なのが,iBeam+を用いた造影超音波(CHI with iBeam+)である。造影超音波の低音圧モードに高信号処理が可能なiBeam+を対応させることで,従来の映像化技術よりも分解能と深部感度の向上が図られている。iBeam+では,従来のビームフォーミングよりもビームを細くすることで,浅部から深部まで全体的にビームを絞ることが可能となり,フルフォーカスでの高分解能画像を取得できる。これにより,フォーカスの調整が不要となり,簡便に造影超音波を施行できるようになった。また,組織抑制能に優れたAM法を用いることで,Kupffer相にて複雑な撮像を追加することなく,Bモード高エコー結節の描出が可能となった。近年,肝がんにおいて代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)といった非ウイルス性の背景肝疾患が増加していることに伴い,脂肪肝や肥満など超音波撮像の難しい被検者が増えており,深部まで明瞭に観察できる技術が求められている。iBeam+は,このような現状にも応える技術であると言える。

肝細胞がんの治療戦略

多くのがんでは,大きさや個数,遠隔転移などにより治療法を決定していくが,肝がんの場合,肝予備能により治療戦略が変わってくる。また,肝がんは,再発を繰り返すという特徴もあることから,結節ごとに治療の必要性を判断することが重要である。
薬物療法においては近年,新規薬剤の保険適用が進み,現在8種が肝細胞がんの治療に使用でき高い効果を得られるようになっている。肝がんの治療戦略では,ラジオ波焼灼療法(RFA)や肝動脈化学塞栓療法(TACE),放射線治療といった治療法と薬物療法を組み合わせて集学的治療を行い,臨床的完全奏功とドラッグフリーをめざすことが大切である。そのためには,造影超音波を用いて,RFAやTACEなどの局所治療をどの部位に行うかを判断することが求められる。加えて,工藤らが2023年に発表した,肝がんにおける臨床的完全奏功とドラッグフリーの定義では,ドラッグフリーにする条件の一つに,造影超音波で腫瘍内動脈血流が完全消失していることが確認できることを挙げている1)
当院では現在,RFA予定の全症例に加え,非多血性・EOB肝細胞相低信号結節の治療適応判断,薬物療法施行中のviable lesionの評価(追加治療の必要性・臨床的完全奏功・ドラッグフリーの可否判定),良性肝腫瘍性病変の診断および経過観察を目的に造影超音波を行っており,検査件数も増加している。

症例提示

症例1は,80歳代,女性,非ウイルス性肝硬変である。造影MRIでは典型的な肝がんの所見であったが,超音波Bモードでは,低エコーと高エコーの部分が存在していた。造影超音波では,フォーカスを設定することなく血流を判断でき,Kupffer相でも高エコーの影響を受けずに血流を確認することが可能である。CHI with iBeam+のAM法とPM法のKupffer相での比較では,AM法の方が低エコー域を明瞭に描出している(図1)。AplioではAM法とPM法をワンボタンで変更でき,被検者によって切り替えて簡便に検査を行える。
症例2は,70歳代,男性,B型慢性肝炎である。造影MRIの拡散強調画像で微細な結節を認め,超音波とMRIのフュージョン画像では高エコーの結節として描出された。CHI with iBeam+のAM法では,血管相において結節が高エコーに描出された。血管相からKupffer相に移行する際,従来はフォーカスを設定し直す必要があったが,iBeam+ではフルフォーカスで画像を得られるため,ストレスなく観察を継続できる。以前のiBeamのPM法の画像と比較すると,CHI with iBeam+のAM法の方が結節の描出能に優れていることがわかる(図2)。本症例は10年前から別の結節の経過観察を行ってきたが,検出した結節をすべて治療すると肝予備能が低下してしまうリスクがある。そのため,医師には治療をしない判断が求められるが,造影超音波はその勇気を与えてくれる。
症例3は,70歳代,男性,胃GIST術後肝内転移疑いで,事前の超音波検査結果を基にRFAを施行した。マイクロコンベックスプローブでは治療部位の描出が困難であったことから,造影超音波を施行して手技を継続したが,途中でガイドニードルの描出が不良となった。そこで,装置を変更し,CHI with iBeam+によるPM法を使用したところ,ガイドニードルを描出でき,良好な焼灼領域を得て治療を終えられた(図3)。
症例4は,60歳代,男性,B型肝硬変である。血管相はhypervascularで,Kupffer相はCHI with iBeam+のAM法にて欠損像を明瞭に描出しているが,PM法では認められない(図4)。このようにAM法とPM法では,描出能が異なるため,両者を観察することで正確な診断が可能になると考えている。

図1 症例1:非ウイルス性肝硬変

図1 症例1:非ウイルス性肝硬変

 

図2 症例2:B型慢性肝炎

図2 症例2:B型慢性肝炎

 

図3 症例3:胃GIST術後肝内転移疑い

図3 症例3:胃GIST術後肝内転移疑い

 

図4 症例4:B型肝硬変 Child-Pugh A,  AFP 5.2, PIVKA-II 29.3

図4 症例4:B型肝硬変
Child-Pugh A, AFP 5.2, PIVKA-II 29.3

 

まとめ

CHI with iBeam+の技術により,誰でも簡便に造影超音波を施行可能な時代が到来しつつある。造影超音波は,肝細胞がんの集学的治療における臨床的完全奏功やドラッグフリーの評価に必要不可欠であり,容易に施行できることは非常に重要であると考える。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。

●参考文献
1)Kudo, M., et al., Liver cancer, 12(4): 321-338, 2023.

 

土谷  薫(武蔵野赤十字病院消化器内科)

土谷  薫(Tsuchiya Kaoru)
1998年 群馬大学医学部卒業。1998年 日本赤十字社医療センター臨床研修医。2000年 武蔵野赤十字病院消化器内科。2009年 山梨大学大学院卒業(社会人大学院)。2015年 ウイーン医科大学消化器内科。2017年武蔵野赤十字病院消化器内科。2020年〜同科部長。2022年〜東京医科歯科大学臨床教授。

 

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