技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年4月号

腹部領域における核医学装置の最前線

「Cartesion Prime / Luminous Edition」で進化した腹部領域PET画像診断

稲村 瑛仁[キヤノンメディカルシステムズ(株)核医学営業部]

キヤノンメディカルシステムズは,2023年4月よりデジタルPET-CT装置「Cartesion Prime / Luminous Edition」の販売を開始した。当装置はPET検出器に半導体光検出素子(silicon photomultiplier)を採用し,その利点を最大限に生かした検出器設計により,time-of-flight(TOF)時間分解能「280ps未満(typical 263ps)」という高い性能を有している。また,当装置が持つ27cmの長い体軸方向有効視野は高感度を実現する。例えば,全身検査においては1mあたり6ベッドで収集が完了し,スループット向上に寄与する。また,頭部や心臓などのターゲット臓器を広い有効視野の中央で撮像することで,高感度による画質向上に貢献できると考える。
本稿では,新たに搭載したデバイスレスPET呼吸同期の特長,および「AiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine)」を用いた息止め収集の腹部領域における適用例を紹介する。

■デバイスレスPET呼吸同期の原理

デバイスレスPET呼吸同期では,専用の外部機器などの設定は不要である。これは,PETで収集された生データに含まれる呼吸に関する情報を利用するためである。本機能では,収集されたデータを短い時間ごとに分割し,高速で簡易的なTOF再構成を実施する。再構成された画像は独自の技術で圧縮され,呼吸特徴量を抽出する。呼吸波形は,呼吸特徴量について主成分分析(principal component analysis:PCA)を実行することにより生成される。

■呼吸波形によらない「Auto Gating」機能

一般的に用いられるPhase Gatingでは,呼吸波形に基づいて,固定の呼吸相のPETデータを抽出・加算することで画像を得る。しかし,呼吸が不安定な被検者では,対応する呼吸位相のデータが不足し,画質が不良になってしまう場合がある。
 新たに搭載したAuto Gating機能では,呼吸特徴量の類似度に基づいて全体のデータから呼吸体動下で類似した画像を自動的に抽出・加算する。このAuto Gatingは,Phase Gatingより使用するデータ量を増やせる場合があり,また,呼吸波形が一定でない呼吸が不安定な被検者ではより効果的で,高画質な画像を生成することができる(図1)。

図1 Phase GatingとAuto Gatingの比較

図1 Phase GatingとAuto Gatingの比較

 

■AiCEを用いた短時間息止め収集

Cartesion Prime / Luminous Editionは,ディープラーニングを用いて設計された画像再構成技術AiCEをPET,CTの両方に搭載している。AiCEで再構成を行った画像は,Gaussian filterのような一様に平滑化するものと異なり,位置分解能を維持したままノイズを選択的に除去する。微小病変の描出能向上はもちろん,低投与量,短時間の収集でも高画質を得ることができる。
腹部領域で長時間収集することは,体動による位置分解能の低下やCT画像との位置ズレを引き起こす可能性がある。しかし,短時間の息止め収集で得られたデータにAiCEを用いることで,呼吸動を含めた体動による位置ズレを防ぎつつ,画像ノイズを低減した良好な画像を得ることができる(図2)。

図2 AiCEを用いた息止め収集の例

図2 AiCEを用いた息止め収集の例

 

本稿では,デバイスレスPET呼吸同期と腹部領域におけるAiCEを用いた息止めPET収集の有用性について紹介した。悪性腫瘍に対する診断精度向上のために,PET検査の重要性はさらに増している。今後のPET検査の動向を見ながら,より診断に有用なPET-CT検査を提供できるように取り組む所存である。

*AiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine)は画像再構成処理の設計段階でDeep Learningを用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

 

【問い合わせ先】
広報室
TEL 0287-26-5100
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