技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2025年3月号

Cardiac Imaging 2025

循環器領域におけるディープラーニングを応用した最新CT技術

伊藤 雄也 [伊藤 雄也 キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部CT営業部営業技術担当]

心臓領域におけるCTの役割は,冠動脈の形態的評価だけでなく,プラークの性状評価,弁の動態評価,心筋虚血やバイアビリティの機能的評価など,幅広く活用されている。一方,CTの空間分解能や時間分解能にはいまだ課題がある。石灰化やステントから発生するブルーミングアーチファクトや,高心拍や不整脈を伴う患者から発生するモーションアーチファクトをいかに低減できるかは,診断精度の向上において重要である。
近年,当社は画像再構成技術にディープラーニングを応用し,低線量撮影における画質改善,超解像による高精細化,高精度なモーションアーチファクト低減などを実現している。
本稿では,心臓CT検査におけるディープラーニングを応用した最新CT技術を紹介する。

■Precise IQ Engine(PIQE)

「PIQE」は,ディープラーニングを応用して超解像処理を行う画像再構成法である1),2)図1)。PIQEにより,Area Detector CT(ADCT)が持つ空間分解能を,従来の再構成法よりもさらに向上させることができる。
PIQEは,空間分解能向上を達成するために高精細CT(Aquilion Precision)のSHR(アイソセンタで0.25mm)で収集した高分解能な教師データを用いている。空間分解能の向上により石灰化やステントから発生するブルーミングアーチファクトの低減に期待できる。さらに,「Advanced MBIR」や「Advanced intelligent Clear IQ-Engine(AiCE)」で培った画像再構成技術を教師データ作成時に使用することで,高いノイズ低減効果や粒状性の維持効果が得られる。低ノイズかつ良好な粒状性が得られるため,弁や腱索の視認性向上や心筋内の均一性向上に期待できる。入力データには,SHRの収集データから従来解像度(アイソセンタで0.5mm)をシミュレーションで作成したデータを用いている。同一な投影データから作成した教師データと入力データを用いて,検出器素子サイズによる空間分解能の劣化過程を忠実に学習3)させることで,ADCTの高分解能化を実現している。また,さまざまなノイズレベルの入力データを用いることで,ロバスト性の高いノイズ低減を実現し,低線量領域においても安定した画質が得られる。PIQEの再構成は反復処理の必要がなく,学習されたdeep convolutional neural network(DCNN)を一度適用するのみであるため,日常臨床に適用可能な高速な再構成を実現している。
図2は,2.5mm径のステントが留置された,遠位部に中等度狭窄を呈した症例である。従来の「AIDR 3D」と比較して,PIQEでは空間分解能向上により,ステントからのブルーミングアーチファクトが低減されており,ステント内腔の視認性が向上している。また,ステント遠位部の狭窄や,内腔の低吸収領域を明瞭に描出している。ステント内腔の描出能向上により,3mm径以下のステント内再狭窄の診断能向上に期待できる。

図1 PIQEのアルゴリズム概要図 a:トレーニングプロセス,b:再構成プロセス

図1 PIQEのアルゴリズム概要図
a:トレーニングプロセス,b:再構成プロセス

 

図2 冠動脈ステント症例(2.5mm径) a:AIDR 3D b:PIQE (画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図2 冠動脈ステント症例(2.5mm径)
a:AIDR 3D
b:PIQE
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

■CLEAR Motion Cardiac

「CLEAR Motion Cardiac」は,ディープラーニングを応用した心電図同期ボリュームスキャンにおける冠動脈領域のモーションアーチファクト低減を実現する再構成技術である。本技術の適用によりCT撮影中の心拍動に伴うモーションアーチファクトを低減することで,診断精度の向上,再撮影による無駄な被ばくの削減,ワークフロー向上が期待できる。
CLEAR Motion Cardiacでは,再構成に用いるビュー角度を通常の再構成よりも小さくした複数の部分角度再構成(partial angle reconstructions:PARs)を用いて,モーション量を推定する。PARの時間分解能は通常の再構成に比べて高いため,高心拍や不整脈に伴う冠動脈のモーション量をより正確に推定が可能である。また,ADCTにおいては1回転で体軸方向に16cmの範囲を撮影した等時相データのため,三次元方向に高い精度でモーション推定が可能である。トレーニングプロセスでは,入力データとしてハーフ+ファン角度分の投影データから作成した複数のPAR画像を用いている(図3-1)。その後,入力した複数のPAR画像から冠動脈領域の検出と,各ボクセルにおける移動量と方向を推定するようDCNNを構築する。膨大な臨床データを用いて,さまざまなモーションに対応した精度の高い推定を可能とする(図3-2)。再構成プロセスでは,実際に収集した投影データから複数のPAR画像を作成し,これらPAR画像をDCNNに入力することで,実際に収集したデータからモーション量を推定する(図3-3)。次に,推定されたモーション量を用いて,通常の画像再構成における逆投影の投影パスを修正しながら再構成を行う(図3-4)。CLEAR Motion Cardiacの再構成は,PIQE同様に反復処理の必要がなく,学習されたDCNNを一度適用するのみであるため,高速再構成を実現している。また,AiCEやPIQEと併用することが可能であり,心臓CT検査の課題であるモーションアーチファクトやブルーミングアーチファクトを大幅に改善させ,診断能の向上や治療方針の決定に寄与する有益な情報を提供することができる。
図4は,1心拍で心電図同期撮影した冠動脈石灰化症例(HR:77)である。CLEAR Motion Cardiacの適用により,心拍動に伴うモーションアーチファクトが低減され,冠動脈構造や石灰化をより明瞭に描出できており,確信度の高い診断への寄与や,心拍数や不整脈など,患者背景に左右されない検査ワークフローが期待できる。

図3 CLEAR Motion Cardiacのアルゴリズム概要図 (上段:トレーニングプロセス,下段:再構成プロセス)

図3 CLEAR Motion Cardiacのアルゴリズム概要図
(上段:トレーニングプロセス,下段:再構成プロセス)

 

図4 冠動脈石灰化症例(HR:77) a:CLEAR Motion  Cardiac OFF+PIQE b:CLEAR Motion  Cardiac ON+PIQE (画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図4 冠動脈石灰化症例(HR:77)
a:CLEAR Motion Cardiac OFF+PIQE
b:CLEAR Motion Cardiac ON+PIQE
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

ディープラーニングを応用した最新CT技術であるPIQEとCLEAR Motion Cardiacの適用により,心臓領域における診断能の向上,適切な治療方針決定への寄与,さらなる被ばく低減に貢献できると考える。
当社は,新たな臨床価値の創出をめざし,さらなる装置改良および技術開発を進める所存である。

*本稿中のディープラーニング技術は設計段階で用いたものであり,システムに自己学習機能は有さない。

●参考文献
1)Lee, T., Zhou, J., Yu, Z., et al. : Deep learning enabled wide-coverage high-resolution cardiac CT. Proc. SPIE, 12304 : 1230410, 2022.
2)Boedeker, K. : Precision-Trained Deep Learning : Redefining Cardiac Imaging. Canon Medical Systems, 2021.
https://global.medical.canon/publication/index
3)Hernandez, A.M., Shin, D.W., Abbey, C.K., et al. : Validation of synthesized normal-resolution image data generated from high-resolution acquisitions on a commercial CT scanner. Med. Phys., 47(10): 4775-4785, 2020.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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