FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.45
病院事業管理者 平林高之 氏
Case 38 砂川市立病院 市立病院の経営改善をローコード開発のシステムで解決 〜診療報酬の請求漏れをチェックするカスタムAppを院内開発
砂川市立病院では,基幹の電子カルテシステムに加えてClaris FileMakerプラットフォーム(以下,FileMaker)で構築した診療支援システムが稼働している。病院事業管理者の平林高之氏が1990年代に自作した退院時サマリの入力・参照システムからはじまり,現在では電子カルテと連携した診療サポートから病院の経営支援,働き方改革まで,医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を可能にするシステムに発展している。FileMakerによるシステム構築の経緯と運用の現状を,平林氏とシステム構築を担当する医事課の佐藤正幸氏に取材した。
中空知医療圏のセンター病院として高度医療を提供
砂川市は,北海道の中央部を流れる石狩川と空知川の合流地点に位置する,自然あふれる水と緑の町である。砂川市立病院は,JR砂川駅から徒歩5分の中心部にあり,病床数は498床,28診療科,医師106名,砂川市(人口約1万6000人)のみならず中空知2次医療圏10万人をカバーする地域センター病院である。砂川市は,札幌市と旭川市から70km離れたほぼ中間に位置する。それだけに地域の中核病院として,急性期医療から地域包括ケアシステムまで幅広くカバーして診療を行っている。
2014年から院長を務め,2018年に病院事業管理者に就任した平林氏は診療の特徴について,「地域では当院が唯一の基幹病院であり,住民の“最後の砦”として,“患者さんを断らない”“24時間救急受け入れ”をモットーに診療を行っています」と述べる。
FileMakerで作成した退院時サマリを全科で利用
同院でのFileMakerの利用は,1990年代前半に循環器内科医である平林氏が心臓カテーテル検査の台帳(カテ台帳)をユーザーメードしたことに始まる。その後,入院患者の退院時サマリの作成もFileMakerで行うようになる。平林氏はFileMakerでのシステム構築について,「まだ電子カルテやオーダリングがなく,カテ台帳やサマリなどは手書きやワープロで作成していた時代です。FileMakerならば患者IDでのルックアップなどを利用してデータを自動入力するなど,手間をかけずに書類の作成ができました。過去の履歴の参照も簡単にでき,循環器内科では医師全員が全患者の退院時サマリをFileMakerで作成するようになりました」と言う。1992年頃に循環器内科で構築された退院時サマリのデータベースはその後,2000年には全科に拡大した。平林氏は退院時サマリの運用について,「当時はカルテが各科管理でしたので,ほかの診療科の情報を見るためには紙カルテを取り寄せるしかありませんでした。FileMakerならば,サーバ管理によって入力された患者情報はすべて共有できます。退院時サマリが全科に拡大したことで,診察での利便性は格段に向上しました」と述べる。
退院時サマリは電子カルテシステム(富士通)導入後も運用されており,現在では循環器内科で4万件,全科では16万件のデータが保存されている。平林氏は退院時サマリについて,「地域にはほかに大きな病院がありませんので,ほとんどの患者さんは最後はここの病院に来ます。その時に過去の病歴や手術などを一瞬で把握できるのは大きなメリットです。20年以上のデータをアクティブに管理できているのは,病院の財産だと言ってもいいでしょう」と述べる。
電子カルテとFileMakerを連携して診療を支援
その退院時サマリの運用が壁にぶつかったのが,2010年の電子カルテシステムの導入だった。平林氏は,電子カルテと退院時サマリを連携させた運用を考えていたが,電子カルテとFileMakerとの接続が難航する。平林氏は,「あきらめかけたところでたまたま参加した日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS)で,地元北海道出身の富士通関係者に出会ったことが突破口になりました」と言う。そこから,北海道のClaris FileMaker認定パートナーである(株)DBPowers(有賀啓之代表)につながり,2015年に電子カルテとFileMakerの連携がようやく実現した。平林氏はFileMakerと電子カルテとの連携について,「電子カルテのデータウエアハウス(DWH)の活用も検討しましたが,一覧性が悪い,検索ができないなど思い通りにいきませんでした。ならば,データを取り出してFileMakerで加工した方が簡単かつ柔軟にシステムが構築できます。両システムの連携で,蓄積したデータを活用した診療や業務の効率化が可能になりました」と述べる。
電子カルテとの連携をきっかけに,2016年にFileMakerのシステム構築担当として入職したのが医事課の佐藤氏である。平林氏は,「FileMakerがユーザーフレンドリーとはいえ,病院の業務システムの構築やメンテナンスには,専門的なスキルが必要です。FileMakerに精通したスタッフを配置した体制を整えました」と説明する。現在,院内の要望で作成されたカスタムApp(FileMakerで作成されたアプリケーション)は20を超える(表1参照)。佐藤氏はFileMakerでのシステム構築について,「カスタムAppは要望を受けて作成し,現場とやりとりしながら作っていきます。ユーザーインターフェイスの変更はDWHでは難しくコストもかかります。現場のニーズにあわせて柔軟に作り込めるのがFileMakerのメリットですね」と述べる。電子カルテとの連携はODBCで日中にDWHからデータを取り込む。現在は,FileMaker Server5台でDWH側の48テーブルを取り込んでいる。
■Claris FileMakerプラットフォームによる診療サポートシステム
カスタムAppを病院の経営改善に活用
平林氏はFileMakerのカスタムAppのメリットを,「看護必要度のような電子カルテだけでは手間と時間を要する入力業務の効率化や,指導管理料の一覧など診療報酬の請求漏れのチェックが容易になったことだ」と評価する。“看護必要度(重症度,医療・看護必要度)”Appでは,看護必要度(薬剤・手術・血液製剤・放射線治療)に適合した一覧表示・印刷などが可能だ。平林氏は,「看護必要度は看護師のチェックと入力に非常に労力がかかっていました。電子カルテには行為の記録や評価は入力されていますが,点数の計算には手間がかかります。看護必要度Appで必要な項目の一覧を提供することで,看護師の負担が軽減しました。看護必要度の正確な評価は施設基準や診療報酬にも反映されますので助かっています」と述べる。
診療報酬請求漏れチェックには,再来患者指導管理料患者一覧,特定薬剤治療管理料未適用一覧,難病外来指導管理料未適用患者一覧などのAppがある。請求漏れチェックに必要なデータを電子カルテから集め,一覧で表示するものだ。同院では,増収のみならず医療の質の向上を目的としたZ-projectが2015年にスタートしたが,FileMakerのカスタムAppがこのプロジェクトを支援した。平林氏は,「院長に就任した時に,このままでは病院が赤字に転落するという瀬戸際でスタートしたプロジェクトです。とはいえ突然患者が増えたり,診療単価が上がるものではありませんので,指導料や管理料,加算など診療報酬上で算定できるにもかかわらず,請求漏れとなっている項目をチェックして,原因の把握と対策を行いました。ワーキンググループで算定可能な項目をチェックしましたが,そのためのデータとしてカスタムAppが効果的でした」と評価する。Z-projectでは,開始からの3年間で約1.5億円増収という成果を上げた。
自動化による業務負担の軽減に期待
平林氏は,今後の課題は病院における働き方改革だと言う。
「医師の労働時間も制限されます。地方の医療機関では簡単にスタッフを増やすことはできませんので,いかに医師以外のスタッフにタスクシフトするかが課題で,事務作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)に期待しています」
佐藤氏は,「RPAでは定形の整ったデータを準備する必要があるので,電子カルテから抽出したデータをFileMakerで定型的な形式に整えるような形で対応できるのではと考えています」と言う。
医療現場のDXを推進する重要なツールとして,FileMakerシステムが地域医療を守る病院の運用を支え続けている。
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