FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.46
常務理事 新保雅則 氏
Case 41 医療法人だいわ会 いしかわ願寿ぬ森(がんじゅぬむい) 介護施設の業務システムの9割以上をClaris FileMakerを用いたローコードで開発しユーザーファーストの運用を実現
介護分野では,2021年4月からエビデンスに基づく介護を実践する「科学的介護情報システム(LIFE)」がスタートするなど,さらなるシステム化が求められている。沖縄県うるま市で入所,通所リハビリテーションなどのサービスを提供している医療法人だいわ会いしかわ願寿ぬ森(大島教子理事長)では,常務理事の新保雅則氏を中心にローコード開発プラットフォームClaris FileMakerで作成したカスタムAppを活用して,介護業務全般を支援している。介護施設におけるシステム化をいち早く積極的に進めてきた同施設の取り組みを取材した。
沖縄県の“みほそ(真ん中)”の町で介護サービスを提供
うるま市は沖縄本島の中部に位置する“みほそ(真ん中,おへそ)”の町で,人口約12万人。いしかわ願寿ぬ森は1996年開設で,介護老人保健施設(老健,定員:80名)のほか,通所リハビリテーション(定員:50名),ホームヘルパーステーション,居宅介護支援事業所などを運営する。総職員数は103名(役員6名,委託業者13名を含む)。老健は,在宅復帰率50%以上,ベッド回転率10%以上などの指標をクリアした超強化型の施設として,利用者の早期の在宅復帰を支援している。また,通所リハビリテーションは,リハビリや入浴,レクリエーションなど提供し,市内のほか恩納村,読谷村,金武町などから利用者を受け入れている。新保氏は,「在宅復帰を基本として,利用者のご家族をはじめさまざまな施設と連携してサービスを提供しています」と述べる。
法人業務の9割以上をFileMakerで構築し管理・運営
同施設では,開設時から介護報酬請求システムが稼働していたが,そのほかの業務については新保氏がFileMakerで事務部門の請求業務や日報,各種伝票などを作成していた。「WordやExcelで作成されていたファイルを,FileMakerで置き換えた感じです。FileMakerならば利用者のマスタがあれば名前や年齢などの自動入力などが簡単にできるので,職員が便利さに気がついて自然と広がっていきました」と説明する。介護保険のスタート後,記録の重要性が高まるにつれて介護の実施記録などにも広がり,2017年にはFileMaker Serverを導入して各部署や個々の端末で構築されてきたカスタムAppを統合してデータの共有化を図った。新保氏は,「FileMaker Serverの導入で共有環境が一気に進み,ここまでできるなら看護記録や電子カルテも作成して共有しようということになって,基幹業務にも拡大しました」と述べる。
FileMakerで作成されたカスタムAppは,事務(勤怠管理,掲示板など),支援相談員(面会・スケジュール,相談記録,業務日誌など),ケースワーカー(入退所管理,ベッドコントロールなど),リハビリ(スケジュール管理,実施記録など),栄養管理(体重履歴,栄養補給,必要栄養量計算,検査値やCONUTの計算・参照,栄養サマリーなど)など多岐にわたる。そのほか“デジタルサイネージ”は,施設入口にタッチパネル式のモニタを設置し,施設が提供する介護サービスの内容,イベント情報などを表示する。新保氏は,「FileMakerとMac miniでコストをかけずに安価に設置できました」と言う。新保氏は,「今では法人業務の9割以上がFileMakerで作成したシステムで処理,管理されています。本来の職責をまっとうしながら,システム開発という任務をこなすことができたのも,FileMakerのローコード開発のおかげだと思います」と語る。
FileMakerが可能にするローコード開発のスピード感
新保氏は,最初に勤務した病院でコンピュータの管理を任されたのがきっかけで,「コンピュータなどまったくわからない文系の人間でしたが,プログラミングをはじめました」と言う。FileMakerと出合ったのは,Macintosh Classicが出た1990年頃。「今と違ってインターネットに情報がある時代ではなく,沖縄という地理的なハンデもあって本などを頼りにほとんど独学で学びました」(新保氏)と話す。
新保氏がつくるカスタムAppでは,インターフェイスなど視認性の良い洗練されたデザインが目を引く。新保氏は,「業務のシステムは毎日見るもので,できるだけきれいで見やすくストレスのない画面構成を心掛けています。広報誌などをつくった経験も生かして,素材を選定したり,デザインの良いWebサイトの色使いなどを参考にしたりしています」と述べる。FileMakerでの構築のメリットについて新保氏は,「初心者でも業務の開発に必要なツールや機能を使ってすぐに取り組めるローコード開発と,開発スピードの速さ,そしてレイアウト作成を含めて洗練されたユーザーインターフェイスで開発できることです。なにより困っていることをなんとかしてあげて,便利になりましたと言われるのが一番の励みですね」と言う。
また,同施設ではモバイル端末として「iPad」を導入,FileMaker Goで業務システムへの入力や参照端末として利用するほか,カメラやビデオの機能を活用して褥瘡の状態確認や,利用者のリハビリの様子の説明などに活用している。新保氏は,「褥瘡の状態を記録するカスタムAppに撮影した写真を保存してコメントとともに管理しています。リハビリの様子は簡単に撮影できますし,コロナ禍で面会も難しくなっていますので映像で利用者の様子が見られることからご家族からも好評です」と述べる。
■ローコード開発プラットフォームClaris FileMakerによる介護システム
LIFEデータの入力システムをFileMakerで試作
LIFEは,通所・訪問リハビリテーションデータ収集システム(VISIT)と,高齢者の状態やケア内容などのデータ収集システム(CHASE)を統合したもので,2021年の介護報酬改定では“科学的介護推進体制加算”も新設された。
同施設では,LIFEへの対応を視野に基幹システムをベンダー製の介護情報システムへのリプレイスを進めた。その理由について新保氏は,「LIFEの運用では,介護保険の改定に合わせた迅速なシステムの改修が必要になること,自分自身がそろそろ引退の時期を迎えてFileMakerの内製によるシステム構築の体制を見直す必要があると考えたことが大きな要因です。基幹業務系のシステムはベンダー製として,FileMakerはそのほかの業務支援へと棲み分ける判断をしました」と説明する。しかし,基幹システムのLIFEへの対応が思うように進まない事態が発生し,新保氏は並行してFileMakerでのLIFEの入力システムの開発を開始。その結果,ベンダーのシステムがLIFEの実運用まで半年以上かかったところ,FileMakerのカスタムAppは2か月程度で完成したという。この開発の過程で,九州工業大学大学院生命体工学研究科の井上創造教授がCEOを務める合同会社AUTOCAREが開催した「LIFE入力選手権!」に応募したところ,新保氏の作成したFileMakerのLIFE入力システムが入賞を果たした。新保氏は,「厚生労働省が作成しているLIFEの様式に合わせてインターフェイスをつくりました。見慣れたフォーマットで速くストレスなく入力できるものになったと自負しています。残念ながら実際の稼働はかないませんでしたが,FileMakerでここまでできるということを示せてよかったと思います」と言う。
FileMakerでの業務システムを持続可能な開発体制を構築
新保氏はこれからのFileMakerでのシステム開発の方向性について,「FileMakerで構築してきた業務支援のシステムをこれからも継続して運用できるように,組織内でFileMakerを使える職員の育成を進めてきました。基幹システムはベンダーに任せて,自分たちの業務にかかわる部分を内製化することでFileMakerの良さを生かしたシステム構築を継続してもらいたいと考えています」と述べる。
LIFEへの対応などシステム構築のリソースが限られた介護現場でこそ,ユーザー本位のシステム構築が可能なFileMakerの活用が期待されるところだ。
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