FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.47

診療放射線科 倉掛 克比己 氏

Case 43 福岡徳洲会病院 多職種がかかわる心カテ室のチームワークをFileMakerプラットフォームの「GOODNET」による情報連携でサポート

診療放射線科 倉掛克比己  氏

倉掛克比己 氏

福岡県春日市の福岡徳洲会病院(病床数602床)は1979年の開院以来,「生命だけは平等だ」の理念の下,24時間365日断らない医療を提供してきた。2014年に病院をリニューアルし地上10階,地下1階で,免震構造を採用し,災害拠点病院,地域医療支援病院などとして高度医療を提供する体制を整えた。救急医療では,屋上ヘリポートなどを整備し春日市を中心とする筑紫医療圏のみならず,県外からの救急患者も積極的に受け入れている。循環器疾患に対しては,心臓カテーテル室(心カテ室)4室で循環器内科を中心に看護師,診療放射線技師,臨床工学技士などがチームとして対応する。その運用をサポートするのがニプロ(株)の循環器総合管理ソリューション「GOODNET」だ。Claris FileMakerプラットフォームで開発されたレポートシステム「G-Record」,患者呼び出しシステム「G-Call」などを中心にシステム構築と運用のコンセプトを,診療放射線科の倉掛克比己氏に取材した。

年中無休,24時間オープンで地域医療を支える急性期病院

循環器内科では,急性心筋梗塞や心不全などの急性疾患に対して当直医1名,オンコール医師2名,そのほかのメディカルスタッフもオンコールで待機し,救急連絡から心カテ室搬入まで30分以内で対応する体制を取っている。心カテの実施件数は年間1900件前後,緊急対応はそのうち280件前後となっている。循環器診療にかかわるスタッフは,循環器内科が下村英紀副院長ほか医師14名,看護師13名,検査科9名,臨床工学(CE)科12名,診療放射線科8名など。心カテ室の運用の特徴を倉掛氏は,「循環器センターとして組織化されているのではなく,各部門からスタッフが集まって日々の検査や当直業務に当たっています。看護師は心カテ室所属のスタッフがいますが,基本的にほかのスタッフは午前は各部門で業務を行い,午後に心カテ室での検査や治療に対応します」と説明する。循環器内科では急性疾患のほか,高度石灰化症例や重症三枝病変に対するロータブレーターやエキシマレーザーによる治療,不整脈に対するアブレーション治療,下肢閉塞性動脈硬化症への血管形成術なども積極的に施行している。

心カテ室の作業効率の向上をめざしてGOODNET導入

循環器内科にGOODNETが導入されたのは2003年で,この時にシネフィルムから動画像のデジタル管理に移行した。2010年のシステム更新の際にFileMakerプラットフォームで開発されたカテーテル検査台帳(カテ台帳)としてG-Recordを導入,それまで院内でFileMakerで自作されていたカテ台帳をベースにしてG-Recordへ移行した。倉掛氏は,「内製していたカテ台帳を引き継いでカスタマイズしてもらいました。心カテ室のみでの運用でしたが,データの収集,集計,検索などが可能になって業務の効率が向上しました」と説明する。
次に大きな更新となったのが2014年で,新病院への移転に伴い看護記録や検査科台帳,放射線台帳など心カテ室にかかわるほとんどの台帳をGOODNETに取り込んだ。倉掛氏は,「ペーパーレス化と業務の効率化をコンセプトに導入を進めました。看護師のカテ記録は手書きで,システム化には前向きではなかったのですが,将来的なデジタル化の必要性を理解してもらい,システム側で入力を省力化することで導入できました」と述べる。倉掛氏はニプロのFileMakerチームと相談しながら,2クリックまでで入力が完了できるように定型文やデバイス情報の事前登録,他システムからのデータ取り込みなどを行えるようにし,二重入力を排して省力化を図った。またG-Recordのレポートは,2009年から稼働した電子カルテシステムと連携してPDFで提供することで,手書きや紙の書類を削減させた。

GOODNETで心臓カテーテル室の情報管理と業務効率化を進める

GOODNETで心臓カテーテル室の情報管理と業務効率化を進める

 

GOODNETで検査室の状況を共有して効率的に運用

病院3階にある心カテ室は4部屋が横並びになっており,操作室側は1つの長い廊下のようにつながっている。そのちょうど真ん中に位置するのが“中央コントロール”だ。中央コントロールには,循環器部門を統括する下村副院長のデスクがあり,ここから検査の部屋割りやスケジュールをコントロールする。また,スタッフ間の連絡やカンファレンスなども行われ,循環器内科の中核施設となっている。GOODNETの端末は中央コントロールのほか,心カテ室の医局,各検査室,循環器内科の病棟などに36台が設置されている(電子カルテとの相乗り端末が25台)。こういった運用のなかで必要なシステムとして導入されたのが,患者呼び出しシステムのG-Callと,スタッフの配置や勤務状況を共有する「ホワイトボード機能」だ。

【G-Call】
G-Callは,心カテ対象患者の呼び出しや検査の進捗状況を管理するシステムで,SMS形式のメッセージ機能やメールの着信を音と光で知らせるパトライト,心カテ室の様子をモニターできるWebカメラなどを連動することで,心カテ室の状況をリアルタイムに把握してスムーズな連携を可能にする。同院はG-Callのファーストユーザーだが,同院での運用ノウハウが製品にフィードバックされるというG-Callの開発サイトでもあった。G-Callについて倉掛氏は,「病棟からは心カテ室の今の状況がわかりませんでした。緊急検査などで時間が延長すると,検査中に病棟からの問い合わせ電話が入るなど悪循環になっていました。G-Callではメッセージ機能やWebカメラを使って,リアルタイムに心カテ室の状況を把握できるようにしました。当初は他社のシステムも検討していたのですが,GOODNETでは電子カルテからの患者情報の取り込みやパトライト,Webカメラなど,さまざまなシステムと連携でき柔軟な構築が可能になりました」と説明する。

【ホワイトボード機能】
心カテ室では,各部門から集まるスタッフのために,心カテ室の稼働スケジュールや人員配置を中央コントロールの手書きのホワイトボードで管理していたが,2022年のシステム更新ではホワイトボード機能をFileMakerで構築した。倉掛氏は,「心カテ室に集まるメンバーは,当日の心カテ室の稼働状況によって勤務体制が決まります。ホワイトボードとネームプレートで管理していたものをFileMaker上に置き換えました」と説明する。この機能は,コロナ禍でスタッフの陽性者なども発生するなかで,勤務履歴の把握にも役立ったと倉掛氏は言う。
「デジタルで保存されていれば過去にさかのぼってどの部屋で勤務し,その時のメンバーは誰かもすぐに確認できます。この管理もFileMakerでデジタル化できないかと考えて依頼しました」
2022年の更新ではペースメーカー台帳の機能も拡張した。以前からあった新規植込み情報に加え,初期設定情報,外来での定期チェック情報を一括で管理するようにした。従来,ペースメーカーのデータは専用用紙に転記,それをスキャンして電子カルテに取り込んでいた。倉掛氏は,「専用用紙のフォームをFileMakerに落とし込み,新規植込み情報とリンクして入力できるようにしました。レポートはPDF化することで電子カルテから一括で閲覧でき,業務を効率化しました」と説明する。

■Claris FileMakerプラットフォームを採用したGOODNET

図1 G-Record(カテーテル検査台帳)

図1 G-Record(カテーテル検査台帳)

 

図2 人員配置のホワイトボード機能 a:スタッフ(看護師以外)用 b:看護師用

図2 人員配置のホワイトボード機能
a:スタッフ(看護師以外)用 b:看護師用

 

中央コントロールのG-Callとホワイトボード機能の表示画面

中央コントロールのG-Callとホワイトボード機能の表示画面

 

アジャイルな開発が可能なローコードのFileMaker

FileMakerでのシステム構築のメリットについて倉掛氏は,「項目の追加や削除,レイアウト変更が容易で,現場の運用に合わせた柔軟なシステムを構築できること,データの集計や解析が簡単にできる診療情報データベースとしてのメリットは以前から感じていました。現在は,さらに機能が充実しており,さまざまなシステムと容易に連携できるようになって可能性が広がっていると感じます」と述べる。また,GOODNETを開発するニプロについては,「こちらの要望や実現したいことは,ほとんど実装できるというのが,FileMakerプラットフォームで構築されたGOODNETのイメージです。ニプロの開発チームは,現場の状況やワークフローを理解した上で開発を行っていると思いますし,時にはわれわれが考えている先までを見通しているのではと感じることもありますね」と高く評価する。
今後の循環器ネットワークの更新のコンセプトについて倉掛氏は,「システムの大きな更新は7〜8年置きなので,次の10年を見据えたシステムの設計が必要です。現場で働くスタッフは,忙しいこともあって多少効率が悪くても従来のやり方を踏襲しがちです。FileMakerなどのシステム化の過程で客観的に見ることで解決できることもあると思いますので,業務のなかで現場に目を配りながら効率的な運用ができるように改善点を見つけていきたいと思います」と述べる。
救急医療の最前線でチーム医療をサポートするGOODNETをClaris FileMakerの柔軟なシステム開発が支えていく。

 

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医療法人徳洲会 福岡徳洲会病院

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