FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.54
副センター長 武田充人 氏(北海道大学病院小児科 准教授)
Case58 北大子どもサポートセンター(アルモニ) Claris FileMaker Cloudと外部データ連携によって小児慢性疾患の相談事業を支援するデータベースを構築

武田氏(中)と自立支援員のやまざきひさこさん(左)とさくましほこさん(右)
小児がんや循環器疾患など慢性疾病を抱える子どもたちやその家族の自立を支援する「北大子どもサポートセンター(愛称:アルモニ,Harmonie)」が,2024年8月,北海道大学病院内に設立された。アルモニは,小児慢性特定疾病児童等自立支援事業として札幌市から委託を受け,患者や家族からの相談や関係機関と連携した対応,支援制度の紹介などの事業を2024年10月からスタート。業務の一つであるWeb上での相談対応について,受付と相談内容などを管理するシステムをClaris FileMaker Cloudで構築した。GoogleフォームのデータをFileMaker Cloudに取り込み,データベース化して関連機関などと情報共有するシステムで,子どもたちの自立を支援する活動を支えている。副センター長としてアルモニの活動を展開し,FileMakerによるシステム開発を中心となって進めた武田 充人氏に取材した。
疾病の治癒によって成人への移行期医療や自立支援が課題
小児慢性特定疾病は,18歳未満の子どもの慢性疾患のうち長期にわたって医療が必要となる病気で,がんや心疾患,呼吸器疾患など16の疾患群が厚生労働省から指定されている。自立支援事業は,子どもの病気に対する治療法の開発によって生存率が向上するのに伴い,成人となる患者の長期化する療養を支援するための事業である。武田氏は,「医療の進歩で,小児期に発症した慢性疾患を持ちながら成人する患者さんが増えました。それによって小児期から成人期へ移行する過程で学校や生活の変化にうまく対応できず,進学や就職などへの不安を抱えるなど,親や家族に依存して自立できない患者さんが増えてきました。小児慢性特定疾病児童等自立支援事業は,そういった患者さんとその家族を医学的・社会的側面から支援する事業です」と説明する。
アルモニは,慢性疾病を持つ患者やその家族に対応する総合相談窓口だ。札幌市からの委託で北海道大学病院内に設けられ,2024年10月から相談事業をスタートした。アルモニはフランス語で「調和(Harmonie)」の意味で,患者と家族,医療機関,学校が一体となって自立支援をサポートするという意図が込められている。事業は,同大学小児科の真部 淳教授をセンター長として,副センター長の武田氏,ほかに看護師資格を持つ自立支援員4名で運営されている。
アルモニの事業内容としては,相談支援を中心に学校や医療機関など関係機関との連携,ホームページや各種講演会などの広報活動を行う。メインとなる相談支援では,メール(随時),電話(月,水,金),対面(木)で行っている。「まず,メールなどを窓口として支援員が相談に対応します。次に相談内容をアルモニ内で共有し,カンファレンスで解決方法などを検討します。その上で,関係機関と連絡を取ったり,実際に療養施設や学校などを訪問したりするなど,人と人をつなげることで小児慢性特定疾病の患者さんの自立を支援する取り組みを行っています」(武田氏)。相談内容は,病状や家庭環境,学校生活や就学・就職の悩みや不安などさまざまだ。武田氏は,「例えば車椅子を使っている患者さんから,『近くの病院に通いたいが移動が不安だ』などの相談があると,その悩みを受けとめ,実際に行政や学校,教育委員会などと課題を共有して話し合っていきます。われわれの使命は,従来は患者さんと病院,患者さんと学校など1 対1 の対応だったものを,関係機関をつなぎ,包括的な支援を行うハブ的役割を担うことです」と述べる。
FileMaker Cloudと外部連携することで受付機能を開発
アルモニでは,患者や家族などからの相談の受付をWeb上のフォームで行っている。相談希望者は,ホームページ(https://harmonie.huhp.hokudai.ac.jp
)やQRコードからメールアドレスを登録。メールで送られたURLの相談フォームに,氏名や相談内容など必要事項を記入する仕組みだ。武田氏は今回の相談フォーム開発の背景について,「市からの委託事業であり,北大病院以外の患者さんも受け入れるため,院内の電子カルテは使えません。受付や相談記録を残すためのシステムが必要だったこと,また,限られたスタッフでの運用になるため,受付や記録,集計などをできるだけ自動化して省力化する環境が必要でした」と述べる。そこで,Appleによってセキュリティ認証されたFileMaker Cloudで相談データベースを構築し,GoogleフォームのデータをAPI連携で取り込むようにした。入力データは自動で転送されるため,転記や二重入力の作業は発生しない。相談内容はフリーテキストで入力されるが,集計に必要な項目はチェックボックスなどを用いての選択式になっている。
システム開発は武田氏が行ったが,GoogleフォームとのAPI連携やクロス集計などはClarisパートナーの(株)イエスウィキャン(東京都港区)がサポートした。武田氏は,小児循環器の心エコーや心カテ台帳をFileMakerで自作するほどの内製開発経験者だが,今回の相談データベースの構築について,「FileMakerの基本的なテクニックは理解していますが,APIを使った外部連携やクロス集計は手に余る部分があり,サポートを依頼しました。今回はシステムの開発をゼロからするのではなく,わからない部分をサポートいただく教育型の開発をお願いしたいという変則的な依頼でしたが,イエスウィキャン社にはこちらの要望をくんで適切に対応していただきました。API連携のコードやクロス集計についてはサンプルコードの提供を含めてレクチャーいただき,集計など一部の実装を依頼する形になりました。ユーザーが自らローコードで開発できるFileMakerならではのプロジェクトの進め方だったかもしれません」と評価する。
APIによる転送や自動集計で入力や計算を省力化
相談データベースには,自立支援患者登録,相談内容情報共有,定期カンファレンス内容記録,札幌市への自動集計報告などの機能がある。患者登録は,Webフォームからの自動転送のほか,メールが使えないなどの理由で電話で受けた場合には支援員が入力することもできる。相談内容情報共有では,相談内容詳細のフリー入力のほか,メール対応か来所対応かなど相談者のデータを記録できる。相談内容に1対1で対応してカンファレンス記録が作成され,これらの記録を共有しながらカンファレンスが行われる。
集計機能では,居住地域(札幌市内・外),新規・継続,相談内容,疾患別,年齢などをクロス集計できる。札幌市への報告のため,それらの集計結果を月1回提出している。武田氏は,「市の委託事業のため,相談に関する実績の集計が必要でした。例えば年代別の相談者数を疾患別にまとめるなど詳細な計算が必要で,手作業では手間がかかることから,自動集計できるようにしました」と述べる。また,連携先施設のスタッフの名刺データを取り込み,データベース化している。武田氏は,「スキャンして取り込むことで名刺情報をリスト化してくれます。この情報を基にお知らせメールの一斉配信などがシステム上で簡単にできるようになりました」と述べる。
■Claris FileMakerプラットフォームで構築したアルモニの相談データベース

GoogleフォームからAPI連携で転送

患者情報の登録画面

相談内容・カンファレンス内容の記録画面
相談内容の共有と可視化がスタッフの意欲を向上
武田氏は,相談内容のデータベース化によって経過や結果が共有され,支援員のモチベーションの向上にもつながっていると述べる。
「患者さんの相談を受けるのは大変な業務です。支援員にとっては,相談を受けるだけでなく,自分が対応した対象者がその後どうなったかがわかるだけでも意欲向上につながります。さらに,相談内容とその対応内容を紐付けて,結果がどうなったかをデータとして示すことができれば,今後の相談支援の方向性を検討する材料にもなると期待しています」(武田氏)。
データベース化にFileMakerを採用したメリットについて武田氏は,「実際にシステムを動かしてみると,使っているスタッフからさまざまな要望が出てきますが,それらに柔軟に対応できています。データベースを運用しながら,“動的”に作り込んでいけるのがローコード開発ツールFileMakerの利点だと感じています」と述べる。
クラウド+ローコード開発のメリット生かしシステムを拡大
今回,登録のフォームからAPI連携によるデータベースの構築,そして集計機能まで,自立支援の相談業務をサポートする機能をパッケージとする準備ができた。武田氏は,「自立支援事業は行政からの委託であることが多いので,集計も含めて機能を提供できるメリットは大きいと思います。受付から登録まで一連の流れを自動化して,そこにかかるコストや時間も削減できますので,ほかの相談支援事業者にも広げていきたいですね。また,ほかの領域にも横展開が可能と考えています」と展望を語る。
セキュリティが担保されたFileMaker Cloudとローコードによる内製開発によって,地域や組織の壁を乗り越えた連携を可能にするシステム。そのシステムが拡大し進化していくことは,子どもたちの明日を照らすことにつながっていくに違いない。
Claris 法人営業窓口
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医療分野でのお客様事例 : https://content.claris.com/itv-medical
03-4345-3333(平日 10:00〜17:30)

北大子どもサポートセンター(Harmonie)
https://harmonie.huhp.hokudai.ac.jp
札幌市北区北14条西5丁目 北大病院小児科
TEL 011-716-1161
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