GE Healthcare Japan Edison Seminar 2021

2022年1月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2021 Series 2

【心臓・循環器】マルチモダリティを用いた循環器診断 Structural Heart Disease(SHD)診療における心エコー図の役割

大西 哲存(兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科)

大西 哲存(兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科)

カテーテル治療のガイドライン1)において,構造的心疾患(SHD)は,心血管疾患のカテーテル治療の発展に伴って生まれた概念であり,心臓の構造的な異常により病的状態を来す疾患群であると定義されている。SHDに対するインターベンションにはさまざまなものがあるが,本講演では,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI),経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC),「MitraClip NTシステム」(アボット社製)を用いた経皮的僧帽弁形成術(MitraClip治療)における心エコーの役割について述べる。

心エコーの位置づけ

SHDの日常診療で主に用いるモダリティは心エコーであり,日本心エコー図学会では心エコー図に熟達した医師の養成とSHDのカテーテル治療の成績向上に寄与することを目的に,「SHD心エコー図認証医制度」を開始した。特に,MitraClip治療においては,実施施設基準としてSHD心エコー図認証医の在籍を義務づけており,SHDに対する心エコーの役割は非常に大きいと言える。

心エコーの役割と有用性

1.TAVI
大動脈弁狭窄症(AS)に対するTAVIにおいては,いくつかのアプローチ方法があるが,当センターでは9割以上が経大腿動脈アプローチにて施行している。TAVI用の生体弁には,エドワーズライフサイエンス社のバルーン拡張弁「サピエン3」と,メドトロニック社製の自己拡張弁「Evolut PRO+」があり,この2種類を用いて治療を行う。
症例1は82歳,女性,心不全増悪を来した重症ASの症例で,自己拡張弁を用いたTAVIを実施した。心エコーでは,ガイドワイヤの心尖部への到達を確認するほか,左室内へのワイヤ挿入後に行うバルーン拡張術(BAV)の際には,弁輪破裂の有無や大動脈弁逆流(AR)の状態を確認する。本症例は,術前の平均圧較差(MPG)が39mmHgと高かったが,TAVI後には2.6mmHgまで低下したことが,心エコーのドプラ指標にてその場で確認可能であった(図1)。また,ドプラ法によるTAVI前後の血行動態の評価や,心エコーのアプローチ方向を変えて心膜液貯留の変化を確認できる点も有用である。

図1 症例1:ASに対するTAVI術後

図1 症例1:ASに対するTAVI術後

 

2.PTMC
僧帽弁狭窄症(MS)に対するPTMCは,リウマチ性のMSの治療法として確立されているが,近年,実施件数は減少している。PTMCをエコーガイド下に行うことで,合併症の一つである心タンポナーデを予防できるほか,狭い弁口をバルーンで拡張する際に,透視のみではわかりづらいカテーテル先端の位置を確認可能である。さらに,経食道心エコー(TEE)にて持続的に観察することによって,バルーン拡張時に増悪することがある僧帽弁逆流(MR)を予防可能である。また,ドプラ法にて術後の血行動態の変化も確認することができる。

3.MitraClip治療
MitraClip治療の適応は開心術リスクの高い患者であり,利点としては経静脈的手技のため安全であること,造影剤を使用しないことが挙げられる。一方,欠点としては,僧帽弁をクリップでつまむことでMSを来す可能性があることや,クリップの耐久性が確立していないことなどがある。
症例2は,87歳,女性,心不全の増悪を繰り返すためMitraClip治療の適応となった。左室駆出率が31%と左室機能が低下しており,薬剤負荷TEEでは重度のMRを認めた。また,3D-TEEでは,僧帽弁は左室にけん引されており,前尖と後尖が十分に接合していないことが確認できた。そこで,心房中隔穿刺を行い,超音波ガイド下に僧帽弁とクリップの角度を合わせ,クリップを左室内に進入させて前尖と後尖の真ん中辺りに留置した。3D-TEEでは,僧帽弁の両側に弁口が開いているのが確認できる(図2)。術後には,ドプラ指標にて血行動態の改善と,運動負荷心エコーにてMRの大幅な改善が確認できた。

図2 症例2:重症心不全症例へのMitraClip留置

図2 症例2:重症心不全症例へのMitraClip留置

 

まとめ

心エコーは,SHD治療の適応評価,治療前精査,治療中・治療後の効果判定や合併症の指摘も可能であり,安全な手技遂行のために必要不可欠である。また,SHDの治療適応や治療効果の評価における運動負荷心エコーの有用性も実感しており,今後,さらなる検討を進めていきたい。

●参考文献
1)2021年改訂版 先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン. 日本循環器学会・他 編,2021.

 

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