経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

2018年12月号

経営者のための医療ITセミナー(東京)

病院経営のアウトカムへ繋げる,医療データの可視化・分析 —地域医療を見据えた,院内外のコミュニケーション—

小川 健二(日本鋼管病院病院長)

小川 健二(日本鋼管病院病院長)

本講演では,医療データの可視化と病院経営のアウトカムへつなげる手法について,「Applied Intelligence」の使用経験を中心に紹介する。

日本鋼管病院の紹介

当院は,1918(大正7)年に日本鋼管事業主病院として開設され,1937(昭和12)年に,神奈川県川崎市初の総合病院として,現在地に日本鋼管病院の名称で創立された。以来,地域中核病院として長らく地域医療に貢献してきた。また,DPC対象病院として急性期医療に取り組んでいるほか,地域ニーズに合わせて亜急性期の患者も受け入れている。

病院経営の可視化

病院経営において収支は結果でしかない。当院は,医療を通じた社会・地域への貢献を使命としているが,その実現に向け可視化すべきなのが病院経営指標である。この病院経営指標は,医療指標と経営指標に分けられる。また,可視化した結果をアウトカムにつなげるためには,現場のアクションが必要である。
私が2012年に病院長に就任して以降,当院では医療データの可視化に取り組んできた。まず,DPCの機能評価係数Ⅱを上げるために,平均在院日数の短縮と新入院患者の増加を図った。人口増加に伴い高齢化が進む地域の状況を踏まえ,内科と整形外科の医療資源を活用するとともに,診療単価と病棟稼働率を上げるために病棟を再編し,地域包括ケア病棟を開棟した。
新入院患者増加のための施策として,地域連携室の強化や入退院管理センター設置,地域包括ケア病棟の開棟,救急部の設置,在宅後方支援病院の届け出,病棟再編を行った。これらの施策により,2013年度に月平均470名であった新入院患者数が,2017年度には580人,2018年度には640人に増加した。また,病棟再編の施策として,地域包括ケア病棟開棟のほか,入院単価の高い脊椎外科と整形外科を拡大した。これらの取り組みによって,2017年度の平均入院単価は5万2240円となり,2012年度の4万1210円より1万円以上引き上げることができた。
上述の経験から,病院経営で可視化すべきデータは,医療指標として新入院患者数,病棟稼働率,入院単価,外来検査数・紹介率,経営指標として人件費率と材料費率,キャッシュフローでカバーできると判断した。また,ドリルダウンしてリアルタイムにデータを見ることも必要である。さらに,データの可視化に当たっては,どのデータベースを用いるかも検討しなければならない。加えて,定点的なデータだけでなく,トレンドを押さえて可視化することも重要である。

Applied Intelligenceの概要と当院でのトライアル

当院では,2018年3月から放射線科と地域連携室でApplied Intelligenceのトライアルを開始した(図1)。まずデータウエアハウス内のRISと地域連携システムのデータを用い,GEのスタッフも交えたワークアウトを通じて,(1)コミュニケーション能力の高い組織づくり,(2)業務効率の改善,(3)医療の質とサービスの向上という課題を抽出した。
放射線科と地域連携室では,ワークアウトで抽出された課題を基に紹介検査数増加による増収に取り組んだ。また,放射線科単体では,検査待ち時間の短縮による患者満足度向上と診療放射線技師の残業時間の削減を図った。
Applied Intelligenceで放射線科のモダリティ別検査比率を見ると,MRI検査は全体の7%で,それを診療科ごとに分類すると,脊椎外科と整形外科が約50%を占める。一方,地域連携のデータでは,紹介検査の割合は30%近くあり,直近2年間の状況を見ると紹介検査が減少傾向にあった。特に紹介検査の中でもMRI検査の減少が著しいため詳しく調べると,かつて紹介検査の多かった診療所からの依頼が減少していた。その原因は,近隣に開業した検査待ち時間の少ない画像センターに依頼が流れているためであった。そこで,当院では,1.5T MRIを追加導入して2台体制として待ち時間の解消を図るとともに,地域連携室が近隣の診療所に訪問し周知活動を行った。この活動が実り,2018年度は紹介検査数が伸び,増収も期待される。
また,患者待ち時間の減少に向け,Applied IntelligenceでCT検査のデータも分析した。1日のCT検査の内訳は,予約検査が約60%,緊急検査が約40%となっており,緊急検査のうち約90%が時間内であった。さらに,時間ごとのCT検査数を見ると11時台が最も多かった。しかし,待ち時間のデータを見ると意外にも11時台は少ないという結果が出た。これは診療開始後の9時,10時台に予約検査が集中することで緊急検査の待ち時間が発生し,予約検査が終了している11時台には待ち時間が解消しているためと考えられた。そこで,放射線科では,患者へのアンケートを実施し,予約検査の開始時間を早めるなどの対策を検討している。
このように,Applied IntelligenceではRISなどの部門システムの高精度なデータを用い業務を可視化することによって,部門主導で業務改善に取り組めるのが大きなメリットである(図2)。ワークアウトを通じコミュニケーションを深めることで強い組織がつくられ,部門主体で自発的にアクションを起こすことにより,病院全体の活性化につながる(図3)。

図1 Applied Intelligenceのトライアルの概要

図1 Applied Intelligenceのトライアルの概要

 

図2 業務の可視化による部門主導での改善

図2 業務の可視化による部門主導での改善

 

図3 将来に向けたステップ

図3 将来に向けたステップ

 

まとめ

超高齢社会により今後は複数の疾病を持つ患者が増えてくる。このような時代には,複数の診療科を横断するコーディネーターや,部門ごとの質を高めるアクセレーターなどの医療スタッフの育成が求められている。また,これからの医療は,従来のプロセス評価からアウトカム評価へ移行していく。
今後の病院経営には,この視点に立って,医療スタッフの育成を行い,部門の壁を越えて医療を提供できる組織にすることが重要である。

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