経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
2018年12月号
医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
放射線技術部門から病院経営をサポート!〜Applied Intelligence〜
加藤 京一(昭和大学大学院保健医療学研究科教授/学校法人昭和大学統括放射線技術部統括部長)
本講演では,昭和大学病院の放射線技術部が取り組んだ「Applied Intelligence」のトライアルにおける業務の可視化とその成果を報告する。
Applied Intelligence導入の目的と運用の流れ
昭和大学病院では,GEからの提案を受けて,医療データ分析サービスであるApplied Intelligenceのトライアルを行った。この目的は,院内にあるビッグデータを用いて業務を可視化することで効率化と最適化を図り,その結果としてワークライフバランスの実現や収益の増加につなげるためである。
Applied Intelligenceのステップは,まず事前準備として,プロジェクトのテーマやゴール,チーム体制,マイルストーンの設定を行う。その上で,チームによるワークアウトで,現状における課題の整理や可視化する対象を特定した。さらに,データウエアハウス(DWH)などからデータを抽出し,Applied Intelligenceのサーバーでそれらのデータを処理して,課題を可視化するダッシュボードを作成。ダッシュボードから原因の分析を行い,改善策の検討を行う。
このステップに従い,放射線技術部では,ゴールを「統括診療放射線技術部における大学への貢献を考える」と定めた。また,診療放射線技師が多忙で各科との連携が不足し業務が非効率になっており,それが患者サービスの低下,医師へのサポート不足につながっていたことから,プロジェクトテーマを「時間がない〜患者のための医師サポート〜」に決めた。そして,ニーズ,環境に合った柔軟な診療放射線技師の人員配置と,各科との連携強化,その実行に向けた業務の可視化に取り組むこととした。
分析に用いるデータソースは,電子カルテ,医事・DPC,DWH,RIS・PACS,各部門システムで,抽出期間は2018年1月分とした。これらのデータソースから,マルチベンダー対応のデータ分析プラットフォームであるApplied Intelligenceのサーバーで,分析に必要なデータを抽出する。抽出されたデータはダッシュボードで,目的に応じてグラフなどを表示して業務を可視化し,課題を特定しやすくする。
Applied Intelligenceのアプリケーションは,ユーザーのニーズに合わせてあらゆる角度からドリルダウンでの分析が可能で,その後の改善活動につなげるために,スタッフ個人レベルでの業務の可視化を行える。
具体的な業務の可視化と改善策
われわれは,Applied Intelligenceを用いて人員配置の適正化を検討した。昭和大学病院の放射線技術部には診療放射線技師が58名在籍している。従来,勤務シフトは1週間前にローテーション表を作成し,その上で当日の検査動向によりスタッフの配置を適宜変更していた。適正な人員配置に向けて,時間別検査数と検査実施時間別の診療放射線技師数のデータを抽出し,グラフ化すると,15〜17時において,診療放射線技師の人数が検査数を上回っていた(図1)。さらに,ドリルダウンして,15分単位での診療放射線技師別検査数を見てみるると,ほとんど検査を担当していない診療放射線技師がいることをわかった。このように検査数と検査実施診療放射線技師数を実施時間ごとに重ね合わせて見ることで,検査動向に合わせた人員数を把握し,人員配置やシフト調整に役立てられる。
また,診療放射線技師の教育,人材育成にもApplied Intelligenceを活用した。従来,再撮影を行った場合,担当技師は紙の「再撮影報告書」に,撮影部位や原因などを記入している。その上で,全体のロス率を算出して,カンファレンスにおいて検討してきた。今回,Applied Intelligenceで診療放射線技師別に再撮影率を分析し,ドリルダウンして再撮影率の高いスタッフの検査種別再撮影率を見ると,特に胸腹部の撮影において再撮影が発生していた(図2)。さらに,再撮影の原因は,ポジション不良が多かった。この結果から,ポジショニングを指導すればよいことが示唆された。加えて,われわれは,人材育成に関し,「いつもどのような業務をしているのか」「次にどのモダリティの業務を習得すべきか」「どのような経験を積ませればよいか」について,Applied Intelligenceでの分析を行った。例えば,ある診療放射線技師のモダリティ別検査数でバラツキがあれば,今後は検査数が少ないモダリティを担当させるといったことが可能となる。このように,Applied Intelligenceは,診療放射線技師別の再撮影率や原因,モダリティ別検査数などを分析できるため,教育,人材育成にも有効活用できる。そして,これらの可視化されたデータから,スタッフの特性も踏まえた円滑なローテーションを組むことも可能である。
われわれは,実施した検査の入院・外来区分,時間内外についても可視化した。昭和大学病院はDPC参加病院であり,収益の観点からは外来での検査の施行が求められる。また,時間外の検査は人件費が増えるため,時間内で実施した方がよい。そこで,診療科別の検査数からドリルダウンして,医師別の検査オーダを分析し,さらに特定の医師の検査オーダの傾向を見た(図3)。このように,Applied Intelligenceで,診療科別,医師別に入院・外来,時間内外の検査を可視化することにより,各科と連携して検査の適正化や平準化を図れる。
このほかにも,類似症例別に検査の分析を行った。DPCは包括払いのため,入院患者の撮影料を算定できず,不要な検査は病院にとっても不利益になる。実際にApplied Intelligenceで分析すると,同じ疾患であっても患者ごとに検査数が異なっていた。このデータを示すことで,今後改善につなげられる。
ワークライフバランスの実現に向けて
今後,職員満足度を向上させるには,ワークライフバランスの実現が必要であり,それには,教育による業務の平準化を図った上で就労時間も平準化し,休暇を取得しやすい環境にすることが求められる。そのためにも,病院内のビッグデータから検査や治療に関するデータを可視化し,勤務体制や無駄な時間などをチェックして,改善につなげることが大事である。
Applied Intelligenceは,これらの活動において必要なデータを手作業で収集することなく,病院内にある既存のビッグデータから必要なデータだけを抽出して,病院経営などに役立つ戦略的な資料を作成・利用できる。さらに,業務を可視化して,効率化と最適化を図れ,ワークライフバランスの実現や収益の向上につなげることも可能である。