経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
2018年12月号
医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
京大病院における問診票の取得方法に関する改善提案
岡本 和也(京都大学医学部附属病院医療情報企画部副部長)
本講演では,京大病院で試みている問診票・同意書の取り扱いについての運用方法の改善事例を紹介する。
デジタルペーパー導入の目的
当院では,ソニー社と共同で同社のデジタルペーパー「DTP-RP1」を用いて,PDFの入出力を行える医療分野で利用可能なapplication programming interface(API)の開発を行うこととなった。
DTP-RP1は,従来機種よりも反応速度が向上し,書き心地も改善され,より紙に近くなっている。また,新たに開発されたAPIは,「デジタルペーパー連携サーバーソフトウェア(DCSS)」と呼ばれ,サーバーから各デジタルペーパー端末へのPDFの配布や,デジタルペーパー内のPDFを回収することが可能で,デジタルペーパー側から指定してPDFを受け取ることもできる。さらに,PDFにコマンドをつけてデジタルペーパーに配布し,デジタルペーパー上でコマンドが実行されると,その実施結果をDCSSが受け取るといったことも行える。
われわれは,デジタルペーパーとDCSSを当院の文書管理システムと接続することを検討した。当院では,文書管理システムとして,問診票・文書作成システム「DocuMaker」とスキャン画像管理システム「C-Scan」(共にファインデックス社製)を運用している。そこで,DocuMakerから,デジタルペーパーで使用するPDFを発行し,デジタルペーパー上で書き込みを行ったPDFをC-Scanで取り込む運用を考えた。C-Scanは,PDFの出力もできるため,デジタルペーパー上で書き込んだPDFを再度出力することも可能である。これにより,問診票・同意書のペーパーレス化を図れる。
デジタルペーパーによる問診票・同意書の取得方法
デジタルペーパーを用いた問診票・同意書の取得方法は,まず外来診察時に,医師がPDF形式の問診票・同意書を発行すると,DCSSでひも付けられた所定のデジタルペーパーに問診票・同意書が表示される(図1)。そこに患者自身が専用のスタイラスペンを使って記入する(図2)。患者が問診票・同意書を作成した後,医師がデジタルペーパーの画面上のボタンを押すと,そのデータがDCSSに送信され,デジタルペーパーの画面では受信完了の表示がされる。さらに,DCSSが受け取ったデータはC-Scanに送信され,C-Scanの画面上から文書を取り込めたことを確認できる(図3)。
また,実際の診療では,一度記入した問診票・同意書(投薬状況など)の内容に誤りがあり,検査前に書き直すことがある。そこで,デジタルペーパーでの運用でも,問診票・同意書を更新できるようにした。デジタルペーパー画面上に当日の患者リストを表示させて,対象となる患者を選択すると,DCSSからその患者の問診票・同意書が送信され,デジタルペーパーに表示する。この画面から修正を行い,再度DCSSに送ることで,登録内容が更新される。
放射線部門におけるデジタルペーパーの実証実験
当院放射線部では,紙の問診票・同意書の内容を修正する場合,再度プリントアウトして記入し直すという,時間と手間のかかる非効率な運用となっていた。そこで,このデジタルペーパーとDCSSによる問診票・同意書取得の実証実験を行った。
実証実験は,CT室において,造影CT検査の問診票・同意書,また,過敏症・喘息用説明兼同意書を対象として,デジタルペーパー2台とDCSSを用いて行われた。実証実験に参加した放射線部のスタッフからは,(1)デジタルペーパーが軽量であること,(2)バッテリーの持続時間が長く1日充電せずに使用できること,(3)作成した文書が取り込めているかをすぐに確認できること,(4)デジタルペーパー2台のうち1台を記入用にして,もう1台を撮影時の確認用にできること,(5)デジタルペーパーを3台で運用すれば紙運用から移行できること,といった点が評価された。また,紙とデジタルペーパーならば,デジタルペーパーでの運用の方が良いとの意見もあった。一方で,システム管理者の観点からは,デジタルペーパーの操作者の管理をどのように行うかが,今後の課題だと考える。さらに,デジタルペーパーやDCSSのコストも,普及に向けてのハードルとなる。
まとめ
当院では,問診票・文書作成システム・スキャン画像管理システムと,デジタルペーパー,DCSSを組み合わせた問診票・同意書のペーパーレス運用に取り組んだ。放射線部での実証実験では,高い評価を得ており,今後さらなる検討を進めていく。