経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
2018年12月号
医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
地域共同利用型PACSの紹介
藤川 敏行(公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院情報システム部部長)
本講演では,地域医療連携の中で,当院を中心に運用している地域共同利用型PACSについて紹介する。
地域共同利用型PACS構築の経緯
当院は病床数が1166床で,2017年度の救急患者数が約6万5000人,手術件数が約1万3000件など,救急医療に力を入れている急性期病院である。職員数は3000名を超え,そのうち医師が490名在籍している。
当院では,2006年にPACSを導入し,「放射線PACS」として,放射線部門のCT,DR,MRI,RI,超音波の画像を保管してきた。その後,2009年には病理画像の保管も開始。また,翌2010年5月には放射線PACSを更新し,翌月からはハイブリッド手術室にある血管造影装置の静止画像の保管もスタートさせた。さらに,2012年9月からは,従来稼働していた脳神経外科の血管造影画像を専用に保管する「脳アンギオPACS」を更新した。その後,同年12月には,心臓CTの画像を保管するGEの「循環器PACS」を導入することとなった。しかし,放射線PACS,脳アンギオPACSと画像の保管が分散し,非効率となっていたことから,循環器PACSを「統合PACS」として,すべての画像の統合管理・参照可能なシステムを構築した。2014年には,統合PACSに心臓エコーのほか,関連施設である倉敷リバーサイド病院の画像も保管するようにした。以降,統合PACSを運用してきたが,2012年9月に統合PACSの稼働から5年が経過し,サポート期間が終了したことと,サーバーのストレージが容量不足となってきたため,新システムへの更新を検討した。
PACS更新に際して,新システムでは,放射線PACS,脳アンギオPACSを統合PACSに一元化し,画像ビューワも統一することとした。また,地域共同利用型PACSとして,データセンター上で共同利用する基盤を構築し,連携先施設も画像保管・参照を行え,DVDなどの可搬型媒体を用いずに施設間相互で情報の共有が可能といった,地域医療において画像データを有効利用できる環境をめざした。さらに,県外のデータセンターに画像データを複製して保管できるよう,バックアップ環境の改善を図ることとした。
地域共同利用型PACSの構成と運用
構築した地域共同利用型PACSは,当院内に直近の画像を保管する短期画像ストレージ(short term storage:STS)と,岡山県内のデータセンターに長期間画像を保管する長期画像ストレージ(long term archive:LTA)を設け,両者を岡山県が管理する岡山情報ハイウェイで接続した(図1)。さらに,宮崎県にバックアップセンターを設け,データを二重化した。
当院がこれらの環境を構築した上で,連携先の施設と共同利用するために2方式のネットワークを設けた。コニカミノルタ社製PACS導入施設との間では,PACS自体に連携するための機能を実装し,直接データセンターと接続した。また,そのほかのベンダーのPACSを導入している施設の場合,京都プロメド社製のゲートウェイを介してデータセンターと接続した。さらに,データセンターと京都プロメド社を結び,遠隔画像診断サービスを受けられるようにした。
地域共同利用型PACSの運用においては,医療機関ごとに異なる患者IDの名寄せが重要となる。われわれの場合,例えば,当院から連携先施設に患者を紹介する場合,まず当院を受診したときに「A001」というIDを付与する。その際,データセンターの地域医療情報連携基盤「Comlavie」(システム計画研究所社製)の「PIX Manager」上に,地域患者ID「A001」が付与され,当院IDとひも付けされる。さらに,連携先施設で紹介患者に「B001」というIDが与えられると,PIX Managerでは地域患者IDのひも付けをせず,当院で名寄せした上でひも付ける。反対に,連携先施設から当院に紹介があった場合は,連携先施設で「B001」を登録しても地域患者IDを付与せず,患者が当院に来院した段階で「A001」というIDを与えて,名寄せをしてから地域患者ID「A001」を付ける。なお,データセンターにPIX Managerが導入されているほか,当院と連携先施設には,「PIX Client」をインストールした。これにより,電子カルテや医事会計システムの患者情報が更新されると,PIX Clientを介して,データセンターのPIX Managerにデータを送る仕組みとした(図2)。
PIX Managerでは,氏名,生年月日が同一のIDを名寄せの候補とするが,同姓同名などを考慮して,患者の住所を参考にしてひも付けを行う。地域共同利用型PACSは,まだ少数の施設で運用しているが,今後新規の参加施設があると,そのたびに数万件の名寄せ候補が発生する。また,救命救急センターで地域共同利用型PACSを使用する場合は,24時間365日の対応が必要となる。これらを専任スタッフが処理するとしても,名寄せに時間がかかってしまうという課題があった。そこで,Robotic Process Automation(RPA)を導入し,コストを抑えて,24時間365日対応,かつ1日約8000件の名寄せ処理を可能にした。
画像参照の仕組みは,例えば,A病院(コニカミノルタ社製PACS)の画像を当院で参照する場合,撮影した画像がA病院のPACSに保管された後,自動的にデータセンターのLTAにも保管される(図3)。患者が紹介状を持参して当院に来院すると,RPAで名寄せ処理が行われ,当院の画像ビューワ「Universal Viewer」からPIX ManagerにA病院の患者IDを問い合わせて,画像を参照できる。反対に,当院のPACSの画像をA病院が参照する場合,当院で撮影した画像が院内のSTS,データセンターのLTAに保管された後,医師が地域共同利用型PACSで参照できるようオーダを出すと,診療放射線技師がPIX Managerの情報を基にIDを書き込み,「地域共同利用型PACS参照」と記載した紹介状をA病院に送る。A病院では紹介状を受け取ると,データセンター内の当該患者の画像が自動的にコニカミノルタ社製PACSへ取り組まれる。また,他ベンダーのPACSの場合は,DICOM Q/Rにより,画像を取得する。
このほか,地域共同利用型PACSは,遠隔画像診断サービスを利用できる。依頼システムでは,地域共同利用型PACSから依頼する画像を選択するだけでよく,依頼内容の入力が不要で,過去画像などの参考画像も選べる。また,所見確認システムは,検査の依頼状況を確認できるほか,所見のPDF形式でのダウンロードや印刷が可能である。
なお,地域共同利用型PACSは,2018年9月現在で5医療機関が参加しており,名寄せ件数は約6万3500件となっている。
まとめ
地域共同利用型PACSを運用するに当たっては,個別に患者の同意を取得していたのでは利用が進まないため,「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」の第23条第4項第3号に基づいて,個人データの共同利用宣言を施設内に掲示している。また,参加施設は,データ量に応じて3万〜5万円の月額利用料を支払うことにしている。ただし,当院のシステムを使用することで,遠隔読影診断サービスの基本料は不要としている。
今後は,参加医療機関の拡大を図るとともに,岡山県の地域医療ネットワークである「晴れやかネット」との連携を進めていきたいと考えている。