経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
2018年12月号
経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)
GEにおける医療Artificial Intelligence(人工知能)分野での取り組み紹介
植竹 望(GEヘルスケア・ジャパン株式会社技術本部研究開発部部長)
本講演では,まずArtificial Intelligence(AI:人工知能)の定義や歴史について概説した上で,医療分野におけるGEのAI搭載製品と研究開発の動向を紹介する。さらに,医療分野でのAIの現状と課題についても説明する。
AIとは?
最近,メディアなどを通じて,AIという言葉を耳にする,あるいは目にする機会が増えている。その技術は「AI>Machine Learning(ML:機械学習)>Deep Learning(DL:深層学習)」という3つの枠組みで考えられる。一般的に言われるAIとは,コンピュータによる知的作業全般を指す大枠で,その中核をなすのがMLである。MLは,コンピュータが「判定を学習する」技術であり,現在,研究開発の中心となっているのが,DLである。DLは,多層のニューラルネットワークで,従来ある技術を発展させたものである。
AIの歴史は古く,約60年前に遡る。これまで3回のブームが起こり,現在は第3世代と言われている。第1次AIブームは,知能や理性を持つロボットを実現目標としたものの,成し遂げることができなかった。次の第2次AIブームでは,この失敗を教訓にして,人間の専門家と同等以上の意思決定ができるエキスパートシステムの開発が行われた。この時に開発された技術の一部は,現在も使われているが,当時はコンピュータの性能の限界,高コストなどの課題を解決できず,ブームは下火になっていった。しかし,以後も研究が続けられ,ニューラルネットワークの発展や非線形問題を解けるようになったことが,現在の第3次AIブームにつながっている。第3次AIブームは,DLが牽引しているが,今後AIが発展しても,人間の仕事を奪うことはないと考える。AIは,あくまでも人間をサポートするツールであり,今後は「AIを使う人」と「AIを使わない人」の戦いになると言われている。
現在のAI開発の中心的な技術であるDLの学習の仕組みについて説明する。例えば,哺乳類を判定させる場合,哺乳類の特徴として恒温動物,肺呼吸,胎生,足があることなどを教える。しかし,クジラのように足がないものやカモノハシのように胎生でない哺乳類もいる。そこで,条件の追加や重み付けなどのパラメータを調整して学習の精度を上げる。また,学習方法としては,人間が教える知識を学習する「教師あり学習」と,経験則からDLが学習していく「教師なし学習」があり,医療分野では現在のところ教師あり学習が用いられることが多い。
医療分野におけるGEのAI製品・研究の紹介
医療分野へのAIの応用については,主に「人の判断・認知の一部を行う(正解をAIに教えて利用する)技術」と,「人間に新たな気づきを与える(AIが自分でパターンを見つける)技術」という,2つの手法がある。前者は,画像解析による腫瘍の抽出や読影レポート作成における音声入力など,後者には,異常画像の抽出や最適な診断・治療の定義,治療法選択候補の提示などがある。以下に,医療分野におけるGEのAI技術を紹介する。
MRIの呼吸同期撮像のためのアプリケーションである“Body Navigator”は,位置決め画像から肝臓の境界を検出し,呼吸相を把握するための信号収集エリア(navigator tracker)を自動的に設定する(図1)。従来は手動で行っていた作業が自動化され,生産性が向上するほか,検査を担当する診療放射線技師の能力に依存することなく高画質画像を得ることが可能となる。
また,超音波検査装置に搭載される“Kidney Segmentation”は,AIにより腎臓の自動セグメンテーションを行う。図2の赤線は医師,緑線はAIがセグメンテーションしたもので,きわめて高精度であることがわかる。腎臓の動きに追従して,セグメンテーションしたエリアも変化する。
このほか,画像再構成技術にもAIが応用されている。ノイズ低減処理は,従来フィルタを用いていたが,AIによりノイズ成分だけを除去することが可能になった。これにより,高速撮像が可能になるほか,高分解能の画像を得ることができる。さらに,造影剤の低減も図れる。AIを用いて最適な造影画像を生成することで,アーチファクトを抑制して画質も向上し,造影剤量も低減できるので,被検者に負担をかけない検査が行える。
さらに,画像ビューワの「Universal Viewer」にもAIが搭載されている。“Smart Reading Protocols(SRP)”は,ユーザーのニーズに合わせて最適な画像表示レイアウトを学習する。また,“Imaging Related Clinical Context(IRCC)”は,重篤度が高い順に読影リストを並べ替えるほか,画像上で病変が疑われる部位にマーキングを行う(図3)。加えて,自然言語処理により,電子カルテなどから検査に関係のある文字情報を抽出して,キーワードをハイライト表示する。
これら以外にも,「Brilliant Hospital」では,モダリティの故障などをAIで事前に予知して,ダウンタイムを最小限に抑えることが可能である。
AIの現状と課題
このように医療分野でも実装が進むAIであるが,現状いくつかの課題を抱えている。その一つとして,高度な計算処理を行うことによるコンピュータパワーの増大が挙げられる。また,医療分野の場合には,学習のために膨大な正解付きデータが必要となる。一方で,AIは結果に対する説明ができないという,
ブラックボックス化の課題も抱えている。さらに,医療分野でのAI活用に向けては,法整備やプライバシーへの配慮が重要である。これらの課題のうち,コンピュータパワー,正解付きデータ,ブラックボックス化の課題については,技術的なアプローチで解決が可能である。GEでは,これからの医療にAIは重要な技術と考えており,プレシジョン・ヘルスの実現に向けて,これらの課題の解決も含めた研究開発を進めていく。