技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2022年9月号

MRI技術開発の最前線

MR検査体験が変わる革新的技術“AIR”の進化

永田  淳[GEヘルスケア・ジャパン(株)MR部]

2022年は,GEヘルスケア・ジャパンにとって,前身である横河メディカルシステムが設立されてから40周年となる節目の年となり,MRについても,同様に日本国内において長い歴史がある。その中で,近年,「MRの検査体験が変わる」をテーマにGEヘルスケアが推し進めているのが“AIR”である。AIRとは,「適応できる・柔軟性がある」というAdaptiveという言葉から始まるAdaptive Imaging Receiveの略であり,さまざまな検査環境の変化に適応し,最適な画像を提供するテクノロジーの総称を指す。このAIRを構成する主な要素は,患者の負担を大きく軽減する“AIRコイル”,ノイズやアーチファクト低減などによって画質の向上に寄与する“AIR Image Quality”,検査中のワークフローを改善し,検査効率向上を実現する“AIR Workflow”の3つである。
本稿では,日々進化するAIRにおいて,2021年以降に販売開始した新機能を中心に紹介する。

■AIRコイル

従来の受信RFコイルと比較して,圧倒的な軽さと高い柔軟性を兼ね備えた AIRコイルは,さまざまな患者の体型に合わせて密着性の高いコイルセッティングを可能とする。コイル重量による患者負担を軽減しつつ,体幹部中心においても高い均一性かつ高SNRを取得できるため,さまざまな撮像法の画質向上に寄与する。
従来の受信RFコイルは,エレメント素子やプリアンプモジュールのような電子部品が大きいということ,また,エレメント同士の干渉を抑えるためにエレメントの位置をしっかりと固定する必要があり,結果として,コイル自体が硬くて重いというのが一般的である。
図1は体幹部用“AIR Anterior Arrayコイル”である。AIRコイルは,内部の素子やパーツを刷新しており,エレメント同士の干渉を抑えることができるという特長がある。そのため,高いSNRと柔軟かつ軽量という,高画質と患者快適性を同時に実現する次世代のRFコイルテクノロジーとなっている。すでに頭部用,体幹部用のAIRコイルを多くのお客様に使用していただいているが,2022年,新たに“AIR Multi-Purpose(MP)コイル”がラインアップに加わった(図2)。このAIR MPコイルは,体幹部用のコイルと比較して,小さな形状になっており,全身のさまざまな部位で,より柔軟な使用用途を持ったコイルとしてお使いいただくことが可能である。また,関節専用コイルとの画質の比較では,肩専用16chコイルの画像と比較しても,AIR MPコイルは同等の画質が得られている(図3)。
さらに,AIR MPコイルは,感度領域やポジショニングの簡便性など,使用者にとってより多くのメリットがあると考える。

図1 MRIシステムとAIR Anterior Arrayコイル

図1 MRIシステムとAIR Anterior Arrayコイル

 

図2 AIRコイルのラインアップ(3.0T)

図2 AIRコイルのラインアップ(3.0T)

 

図3 関節専用コイルとAIR MPコイルとの比較

図3 関節専用コイルとAIR MPコイルとの比較

 

■AIR Image Quality

ノイズの少ない,高分解能,かつアーチファクトの少ない画像を得られる画像再構成パイプラインの総称がAIR Image Qualityである。この技術は,“AIR Recon”と“AIR Recon DL”を中心に,信号受信から臨床画像作成でのプロセス全体でイメージクオリティを大きく向上させる。ノイズとアーチファクトを低減させ,SNRと空間分解能,撮像時間のトレードオフを気にすることなく,次世代のイメージクオリティが提供できると考えている。
まず,画像の背景ノイズやアーチファクトを低減する技術であるAIR Reconを,2020年よりすべてのGE社製MR装置に搭載開始した。このAIR Reconは,ノイズキャリブレーションデータを取得し各コイルエレメントのノイズレベルを計測,受信チャンネルごとに重みづけを行う新たな画像再構成アルゴリズムである。従来法の画像再構成に比べ,背景ノイズの低減によりSNRが向上し,撮像領域外からのアーチファクトも低減することが可能となった。
さらに,2021年には,ディープラーニング技術を用いた,次世代のMR画像再構成法であるAIR Recon DLを販売開始した。図4に示すように本技術はk-spaceフィルタを用いることなく,raw data全体に対して直接ディープラーニングを適用している。raw data全体をフルに活用していることで,SNRの向上だけでなく,画像尖鋭度の向上,そしてトランケーションアーチファクトの低減,という3つの効果を同時に得ることが可能である。
進化しているAIR Recon DLは,SNRが低下しがちな拡散強調画像にも適用可能になり,幅広い検査内容に対して活用していただいている(図5)。このように,MRIにおける画像再構成の基本プロセスに根本的な革新をもたらし,今まで不可能と考えられてきた「イメージクオリティを向上させ,かつ撮像時間を大幅に短縮する」ことが現実となった(図6)。

図4 AIR Recon DLによる画像再構成の効果について

図4 AIR Recon DLによる画像再構成の効果について

 

図5 AIR Recon DLを活⽤した拡散強調画像

図5 AIR Recon DLを活⽤した拡散強調画像
前-右側の灰⽩質の信号変化が明瞭に観察されている。thin sliceによるDWIだが,⼗分なSNRが担保されており,短時間でvolume DWIの取得が可能になっている。
(画像ご提供:⼾⽥中央総合病院様,「SIGNA Pioneer 3.0T」を使用)

 

図6 AIR Recon DLを活用した高空間分解能撮像と検査時間短縮

図6 AIR Recon DLを活用した高空間分解能撮像と検査時間短縮
高い空間分解能の腰椎プロトコールを,トータル4分54秒で撮像している。
(画像ご提供:国内 3.0T装置を使用のご施設様)

 

■AIR Workflow

より良いMR検査の実現のためには,快適性の向上,撮像時間の短縮や画質向上とともに検査全体のワークフロー向上が不可欠である。AIR Workflowでの新機能として,GE AI開発プラットフォームの「Edison」を用いて開発された新しい自動位置決め機能“AIRx”に膝関節が追加された。AIRxは,3万6000以上の画像データベースから作成されたディープラーニングアルゴリズムを搭載しており,基準断面だけでなく前十字靭帯(ACL)や後十字靭帯(PCL),半月板や膝蓋骨などの解剖学的部位を指定しての自動位置決めが可能になった。

GEヘルスケアは,画質の向上だけでなく患者負担の軽減,検査ワークフローの向上など,さまざまな面からMR検査のさらなる質の向上をめざしている。多様な変化に適応し,最適な画像を提供するテクノロジーであるAIRは,検査にかかわるすべての人にとってより多くのメリットを生み出すために進化を続けている。AIR Technologyの今後の普及と進歩が,医療現場で日々奮闘されている皆さまの一助となることを期待している。

販売名称:シグナ Pioneer
医療機器認証番号:227ACBZX00011000
販売名称:シグナVoyager
医療機器認証番号:228ACBZX00009000
販売名称:AIRコイル (1.5T)
医療機器認証番号:301ACBZX00010000
販売名称:48ch Headコイル (3.0T)
医療機器認証番号:228ABBZX00152000
販売名称:AIR MP コイル (3.0T)
医療機器認証番号:302ACBZX00022000
JB05998JA

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
gehealthcare.co.jp

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