技術解説(コニカミノルタ)

2025年3月号

Cardiac Imaging 2025

X線動態解析ワークステーション「KINOSIS」による動画解析機能について

塩原 惇也[コニカミノルタジャパン(株)ヘルスケアカンパニーIoT事業統括部病院戦略部]

当社は,単純X線検査は静止画という従来の常識から,「時間軸」という次元を加えた動態撮影によって新たな価値を提供する「デジタルX線動態撮影システム(Dynamic Digital Radiography)」を展開している。X線動態システムは,従来の静止画X線撮影に対し,連続したパルス状のX線を用いて動画像を取得する技術である。この技術により,臓器や骨の動きを観察することが可能となる。また,さまざまな動態解析機能を有する「X線動態解析ワークステーションKINOSIS(キノシス。以下,KINOSIS)*1」により,診断価値の向上に貢献できると考えている。
 なお,このX線動態撮影システムの構成は,単純X線撮影装置および回診用X線撮影装置と当社のフラットパネルディテクタ「AeroDR fine motion*2」,KINOSISによって成り立ち,単純X線撮影室とベッドサイドのどちらでも検査可能となっている。
本稿では,このKINOSISによって提供できる画像解析機能について紹介する。

■X線動態撮影とKINOSISの画像解析

X線動態撮影では,パルスX線を1秒間に15回連続照射し得られた画像を連続表示することで動画として表示される。最大20秒の連続撮影が可能となっており,深呼吸と息止めの2つの撮影方法がある。深呼吸の撮影には,15秒程度の撮影の中に最大吸気と最大呼気を含むように撮影を行い,息止めの撮影には7秒以上の息止めの指示の下,撮影を行う。検査の再現性を保つためオートボイスを使用した撮影を行い,実際の撮影前に呼吸の練習を行う機構を有している。
最大の特長として,単純X線撮影室での検査であるという点が挙げられる。そのため,検査時間も短時間かつ簡易に,従来の静止画より多くの情報が取得可能である。本システムは静止画と同様の撮影システムであるため,立位,臥位および任意の体位での動画像撮影が可能である。さらに,上肺野から下肺野までの動きを同一時間軸で観察が可能である。CTやMRIにおいては臥位で撮影するのに対し,X線動態撮影では日常生活における自然な体勢に近い状態を観察できるという利点もある。さらに,胸部に限らず,さまざまな部位での動態撮影が可能となっている。
このX線動態撮影により撮影された動態画像をKINOSISで解析することによって実現する画像解析を紹介する(図1)。
KINOSISによる画像解析で実現できることとして,識別能の向上,動きの定量化,肺機能情報の可視化の3つが挙げられる。
識別能の向上では,肋骨の減弱や構造物の強調を行う画像処理により,肺内病変や肺の動きをより見やすくすることが可能となる。これにより,肺の胸膜癒着による動きの制限を視認しやすくすることが可能となる。
次に,動きの定量化では,横隔膜や肺の辺縁など構造物を認識し,トラッキングすることで,動きや面積の変化などの定量化を行うことが可能となる。呼吸による動きを定量的に評価することで,肺の過膨張や横隔神経麻痺を確認することが可能となる。
最後に,肺機能情報の可視化では,従来の形態情報に加え,呼吸による肺野内組織のX線透過量の変化を可視化する画像処理(PL-MODE)や,心臓領域から抽出された信号波形(心拍波形)と類似する肺野内の信号値変化を可視化する画像処理(PH-MODE/PH2-MODE)があり,これらの機能情報が加わることで,さらに多くの情報を提供できると期待している。
また,これらの解析結果は,造影剤を使用せずに取得することが可能で,アレルギーのリスクや造影剤適応の可否を確認せず検査することができ,被検者と医療者,双方の負担軽減となる。さらに,造影剤使用による医療費高騰の抑制にもつながると考えている。

図1 KINOSISが提供する画像解析

図1 KINOSISが提供する画像解析

 

■血管拍動に伴う信号変化の可視化(PH-MODE/PH2-MODE)

1.原 理
先行研究1)の中で,心拍出に伴うX線の透過率の変化が確認されており,心拡張期には,肺動脈の血流量が相対的に減少することで肺動脈の血管径が細くなり,X線透過率が増加する。対して,心収縮期には,肺動脈の血流量が相対的に増加することで肺動脈血管径が太くなり,X線透過率が減少する(図2)。これに伴う信号値変化を抽出することで,血管拍動に伴う肺機能情報を表現する解析画像を得ることが可能である。

図2 心拍出に伴う肺血流の信号値変化

図2 心拍出に伴う肺血流の信号値変化

 

2.PH-MODEアルゴリズム
PH-MODEは,息止めによって取得した胸部動態画像上の心臓にROIを設定することで,心拍による信号値変化を抽出する。同時に,肺野内の各画素の信号値変化を抽出し,ROIを設定した心臓の信号値変化と肺野内の各画素の信号値変化の類似度の解析を行う(図3)。類似度が低い部分には色付けを行わず,類似度の高い部分にのみ色付けを行うことで,肺動脈の血管拍動に伴う肺機能情報の画像を取得する画像解析である。

図3 PH-MODEアルゴリズム

図3 PH-MODEアルゴリズム

 

3.PH2-MODEアルゴリズム
PH2-MODEは,PH-MODEと同様に,心臓にROIを設定し,心拍による信号値から心拡張期に当たるフレームの割り出しを行い,そのフレームを基準フレームとする。各フレームの肺野内の各画素の信号値から,基準フレームの肺野内の各画素の信号値をそれぞれ差分することで,心拡張期から増分した信号値のみを抽出することができる(図4)。心拍と同期する肺野内の信号値変化量を抽出することで,より微細な信号値変化にも色付けすることができ,より末梢までの肺動脈の血管拍動に伴う肺機能情報の画像を取得する画像解析である。

図4 PH2-MODEアルゴリズム

図4 PH2-MODEアルゴリズム

 

コニカミノルタが実現する単純X線撮影における動態画像解析の紹介をした。X線動態撮影は,CTや核医学などの高度画像診断よりも簡便な検査方法で,これまでのスクリーニング検査よりもはるかに多くの画像診断情報を提供できると考えている。
X線動態撮影は胸部中心に広まっているが,気管・嚥下の観察,整形領域,救急領域,集中治療領域と,さまざまな診療科での適応が始まっており,なかでも紹介したPH2-MODEについては,着実にエビデンスを積み上げてきている。
デジタルX線動態撮影システムが,患者と医療者にとってより効率的な診療を提供し,診断レベル向上につながる新たな価値を提供するとともに,医療の質の向上に貢献できることを期待する。

*1 「KINOSIS」は,販売名「画像診断ワークステーション コニカミノルタ DI-X1」(製造販売認証番号:第230ABBZX00092000号)の呼称です。
*2 AeroDR fine motionは「デジタルラジオグラフィ SKR 3000(製造販売認証番号 228ABBZX00115000)」の呼称です。
*3 X線動態は,コニカミノルタ株式会社の登録商標です。
*4 当社ホームページをご覧ください。
  https://www.konicaminolta.jp/healthcare/products/dr/kinosis/index.html

●参考文献
1)Tanaka, R. : Dynamic chest radiography : Flatpanel detector (FPD) based functional X-ray imaging. Radiol. Phys. Technol., 9(2): 139-153, 2016.

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