技術解説(フィリップス・ジャパン)

2024年4月号

腹部領域におけるCT技術の最前線

低被ばく腹部画像診断におけるAI技術の応用

井谷 健太[(株)フィリップス・ジャパンCTモダリティセールススペシャリスト]

本稿では,フィリップスがこれまで開発してきた画像再構成技術の歴史と,2021年に新たに発表したAI技術を使用した「Precise Image(PI)」に焦点を当て,その腹部画像診断への有用性について紹介する。

■CT画像再構成技術の進化

CTにおける画像再構成技術は大きく3つの時代をたどってきた。
最初に登場した「filtered back projection(FBP)」は,長らく使用され続けた画像再構成技術で当初より明瞭な画像の提供が可能であったが,低線量撮影においてはノイズ増加により画質の劣化が顕著となる。
次に,上記課題を解決すべく,逐次近似画像再構成法(Iterative Reconstruction)の手法が取り入れられるようになり,フィリップスはこれまでに「iDose4」や「IMR」を発表し,低線量撮影時でもノイズの低減が可能となった。
一方で,大幅な画像ノイズ低減は,長年多くのCT検査で使用されてきたFBPの画像と比較すると,画像の質感に変化が現れ,読影者から違和感があると指摘されるケースもあった1)
2021年にフィリップスが発表したPIは,AI技術によるノイズ低減と画質の適正化を同時に実現する画像再構成法である。

■Precise Imageの画像再構成技術

PIのアルゴリズムには畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)が使われており,低線量で撮影された画像が標準的な線量で撮影されたFBP法の画質に近づけるようにトレーニングされている(図1)。
実際には,標準的な線量で撮影されたRawデータに対し,検出器の量子ノイズと電気ノイズをモデル化した仮想的な低線量画像を生成することから始まる。そして,この低線量画像を基にした標準的な線量のFBP法の画質を再現するタスクがCNNには与えられることとなる。
PIのCNNは学習が完了しており,新しい患者データが入力された場合に,迅速に処理が実行され,標準的な撮影プロトコールでは30秒以内の画像再構成を実現する。日々のルーチン検査で実用性の高い画像再構成技術である2)

図1 Precise Imageのアルゴリズム概要

図1 Precise Imageのアルゴリズム概要

 

■Precise Imageの臨床応用

PIでは,主に臨床画像をトレーニングに使用してAIのネットワークが学習されているため,性能評価ファントム上での結果が優れているだけでなく,臨床画像の画質が改善しているかが重要となる。そのため,ファントムを使用した性能評価は臨床プロトコールに沿ったタスクベースの性能評価が多く報告されている3)〜5)
PIを使用した腹部領域の症例画像を提示する(図2)。
図2では,撮影時期が異なる同一の患者における静脈相の画像で,FBPやiDose4など,従来の再構成技術より被ばく線量を低減しても画質が維持されているのが視覚的に確認できる。

図2 同一の患者における静脈相の肝臓画像

図2 同一の患者における静脈相の肝臓画像

 

本稿では,近年,臨床応用が広がってきているAI技術を活用した低被ばく腹部画像診断の進化に焦点を当て,その技術の詳細や臨床応用における有用性について解説した。PIは,その迅速な画像再構成と精細に描出された画像により,臨床現場でのさらなる活用が期待される。

●参考文献
1) Geyer, L.L., Schoepf, U.J., Meinel, F.G., et al. : State of the Art : Iterative CT Reconstruction Techniques. Radiology, 276(2): 339-357, 2015.
2)Philips Healthcare : AI for significantly lower dose and improved image quality.(White paper)
https://www.philips.com/c-dam/b2bhc/master/resource-catalog/landing/precise-suite/incisive_precise_image.pdf
3)Greffier, J., Durand, Q., Frandon, J., et al. :  Improved image quality and dose reduction in abdominal CT with deep-learning recon-struction algorithm : A phantom study. Eur. Radiol., 33(1): 699-710, 2023.
4) Greffier, J., Si-Mohamed, S., Frandon, J., et al. : Impact of an artificial intelligence deep-learning reconstruction algorithm for CT on image quality and potential dose reduction : A phantom study. Med. Phys., 49(8): 5052-5063, 2022.
5) Greffier, J., Frandon, J., Durand, Q., et al. :  Contribution of an artificial intelligence deep-learning reconstruction algorithm for dose optimization in lumbar spine CT examination : A phantom study. Diagn. Interv. Imaging, 104(1): 76-83, 2023.

 

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