技術解説(フィリップス・ジャパン)
2025年4月号
Cardiac Imaging 2025
フィリップスの医用画像ワークステーション「Advanced Visualization Workspace15」
平久保 拓[(株)フィリップス・ジャパン エンタープライズインフォマティクス クリニカルインフォマティクス ビジネスマーケティング スペシャリスト]
2025年より,フィリップスは新たな医用画像ワークステーションである「Advanced Visualization Workspace15(AVW15)」の販売を開始した。これまで提供してきたレガシーワークステーションを基に,解析の時間短縮やワークフローの改善にフォーカスし,新たに設計されたアプリケーションを搭載した。マルチモダリティ(CT,MRI,核医学),マルチベンダーワークステーションであり,特にcardiac解析を自動化する機能を強化し,定量的な解析結果を短時間で提供できるようになったので紹介する。
■Zero-click機能を活用したバックグラウンド解析
cardiacの解析は,CT,MRI共に画像枚数が多いため読み込みに時間がかかる。また,解析は精度が求められ,多くの時間を要していた。AVW15は,Zero-click機能を利用することでデータ受信直後からバックグラウンドで自動解析が行われ,アプリケーションを起動するとトレースや血管認識などが終了している状態から始めることができる。例えば,「MR Cardiac Functional LV/RV解析」では,拡張期(ED)/収縮期(ES)フェーズと心室の自動トレースが人工知能(AI)技術を利用し高精度にトレースされるため,アプリケーション起動後,トレースの確認作業のみで解析結果を得ることができる。また,CTでは事前設定により最大17枝の血管トレースがバックグラウンド解析で可能になり,解析者はトレースされた血管認識を確認することで解析の大半を終えることが可能となった。さらに,マルチバッチ機能を併用することで,curved MPRやストレッチビュー,血管直交断面の画像出力もワンクリックで,最大17枝行うことができる。心筋トレース作業および血管解析にかかる時間や精度,画像出力までの時間は解析者の経験値によって大きな差が出るが,解析を自動化することで解析結果の個人差を低減することが期待できる。また,解析時間に余裕が生まれるので検査に集中できるようになり,検査を受ける側にとっても優しい環境を提供できると考えている。
■AI技術を利用したMRI心筋トレースと「MR Cardiac Suite」
前述のAI技術は,機械学習という技術がベースとなっている「教師あり学習」で,機械学習を利用した畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)1),2)と呼ばれる画像認識のAIモデルと,モデルベースのセグメンテーションmodel-based segmentation(MBS)を組み合わせた高精度のトレースを実現している。MBSの心臓モデルは,LV,LVM,RV,心房,大動脈の一部,肺動脈の一部で構成され,アクティブサーフェスとアクティブシェイプモデルの柔軟性を組み合わせた手法で,MBSフレームワークは,ターゲットとなる臓器の事前定義された3Dメッシュモデルを3D画像に適応させている。AVW15では,欧州6施設で収縮機能不全,拡張型・肥大型心筋症など多岐にわたる症例患者を幅広い条件で撮像されたデータを使用して,AIモデルの学習・評価を行い開発されている3)。
解析においては,マウス操作とクリック数の多さが解析者にとって負担となっているが,AVW15では,MRIの心臓解析はMR Cardiac Suiteという新しいユーザーインターフェイス(UI)に搭載し,一つのプラットフォームでMR Cardiac Functional LV/RV解析の心膜トレースをすべての解析に引き継ぐことができる。UI上でビューワからLV/RV心機能解析,遅延造影解析,パーフュージョン解析,各T1,T2,T2*mappingと細胞外容積分画(ECV)解析がそれぞれ最小ワンクリックで切り替えできるよう設計され,解析結果後の状態を保存するbookmark保存機能に代わり,Finding dashboardを作成・保存でき,これまでの検査を一目で確認し,ワンクリックで解析を再読み込みできる(図1)。フレキシブルな分割レイアウトも可能であるため,解析画面上で前回の解析と比較できることは,解析結果をPACSなどで並べて比較するよりも大きなメリットを提供できると考えている。マッピングアプリケーションでは,通常,ECV値を算出するためにはヘマトクリット値が必要だが,得られたT1値から計算式によって合成ECV値の算出も可能となった。

図1 MR Cardiac Suite上の2分割レイアウト
左:心機能解析
右:Finding dashboard画面
■冠動脈CT画像解析によるCAD-RADSと「CT Multi Phase Analysis」によるECV解析
冠動脈CTの解析は,「CT Comprehensive Cardiac Analysis(CCA)」アプリケーションで提供している。血管と大動脈や心筋をトレースするだけではなく,心臓四腔もそれぞれセグメンテーションする。それにより,ED/ESなど複数時相を同時に読み込むことで心機能評価も提供できる。AVW15では,さらにそのセグメンテーションと血管の抽出精度が向上し,事前設定により最大17枝抽出する。今回,これまでの機能に加えて,病変部をFinding summaryに登録することでCAD-RADS(Coronary Artery Disease Reporting and Data System)による評価も提供可能となった。国際的なレポートガイドラインを解析画面に取り入れることで,解析者や読影者とのより詳細なコミュニケーションを提供できると期待している(図2)。
ECV算出を目的とした心臓MRIによる遅延造影検査は,非常に優れた診断画像を得られるが,一方で,検査時間の長さや撮像禁忌などが課題となる。そこで,心臓CTによる心筋評価が注目され,造影剤注入5〜10分後に,心電図同期による遅延相撮影をすることで,単純相との計算によってCT-ECVを算出し評価ができる。心筋ダメージは,CT遅延造影だけでは評価は困難であるが,CT-ECV解析を加えることで視覚的かつ定量的に判断可能となる。AVW15に搭載されているCT Multi Phase Analysisアプリケーションを使用すれば,画像を読み込み,数回のクリック操作でECVの処理が提供できる(図3)。当社のSpectral CTであれば遅延相画像のみでECVを解析できるが,単純相と遅延相の2相の画像から解析するため特別なCTは必要とせず,幅広いCT装置で解析を提供できる。心筋性状評価をCT,MRI両面から解析を提供できるのはAVW15の強みとなっている。

図2 CAD-RADSによる狭窄評価レポート

図3 CT Multi Phase AnalysisによるCT遅延像によるECV解析
本稿では,AVW15によって提供できる心臓検査の一部とスマートなワークフローを紹介した。これまでレガシーワークステーションにおいても, 循環器画像診断においてユーザーの方々からその有用性を評価いただいてきた。新たなワークステーションであるAVW15によって,進化したインターフェイスと自動処理による効率化に伴う使いやすさを提供することで,解析結果の個人差低減やワークフローの改善にも寄与することができると考えている。働き方が問われている中で,解析の時間短縮を実現し,撮影者が余裕を保ちながら検査に集中できる環境をサポートすることで,患者に寄り添った画像診断の提供に少しでも貢献できると幸いである。
販売名:フィリップス Advanced Visualization Workspace
医療機器認証番号:306AFBZX00035000
特定保守管理医療機器/管理医療機器
●参考文献
1)Ecabert, O., et al. : Automatic model-based segmentation of the heart in CT images. IEEE Trans. Med. Imaging, 27(9): 1189-1201, 2008.
2)Brosch, T., et al. : Deep Learning-Based Boundary Detection for Model-Based Segmentation with Application to MR Prostate Segmentation. Medical Image Computing and Computer Assisted Intervention 2018, 515-522.
3)Tom, B., et al. : Model-based segmentation using neural network-based boundary detectors: Application to prostate and heart segmentation in MR images. Mach. Learn. Appl., 6 : 100078, 2021.
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