ACCURAY RT UPDATE

2023年4月号

がん放射線治療の今を知る!~最前線の現場から No.5

「Radixact」における新しいハードウエア+ソフトウエアによる効率の良い高精度放射線治療の実現

松本 康男(新潟県立がんセンター新潟病院放射線治療科)

当院における放射線治療

当院は,1950年に「新潟県立新潟病院」として,性病予防を目的に内科と性病科で開院,1961年に「新潟県立ガンセンター新潟病院」に改称し,総合病院の承認を受けた。1987年に現在の「新潟県立がんセンター新潟病院」(病床数450床・当時)に改称し,2002年に地域がん診療拠点病院,2007年に都道府県がん診療拠点病院に指定されている。
当科は毎年800~900症例が新規登録され,新たながんや再発などでの紹介を含めると,年間1000症例前後を治療している。近年まで患者数に対する医師・医学物理士の数が少なく,高精度放射線治療では,定位放射線治療を他施設より多く行うのが精いっぱいの状態が
続いた。治療計画や検証など,多くのマンパワーを必要とする強度変調放射線治療(IMRT)には手が回らない状況であった。
当科は日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)放射線治療グループに属しているが,IMRTを用いた臨床試験への参加に積極的に手を挙げることができず,この状況をなんとか改善したいという強い思いはずっとあった。しかし,日常診療に忙殺され,積極的にIMRTに取り組む時間や精神的余裕はなかった。IMRT件数を増やし,より良い治療を多くの患者に提供するには,それを得意とする放射線治療装置の導入が最も近道であることは,高精度定位放射線治療装置「Novalis」(ブレインラボ社製)導入時の経験からわかっていた。

Radixact導入による効果

そんな状況の中,筆者が部門長となって間もなく,放射線治療装置更新のタイミングがやってきた。当時,新潟県の財務状況は最悪と言われている中,ほぼ決定事項であった安い汎用リニアックではなく,比較的高額なトモセラピーの最新プラットフォーム「Radixact」(アキュレイ社製)導入を認めてもらうのには苦労した。当院でのがん診療における放射線治療の役割・状況などを県の病院局に根気よく訴え,最終的には無事に導入することができた。
Radixactは,IMRTはもとより40cm以上にわたる長い病巣に対しても,つなぎ目のない放射線治療が可能である。このことによって,頸部や腹部リンパ節まで進展した食道がん(図1)や,上頸部まで転移のある肺がん,通常の放射線治療では根治照射が難しい両側頸部リンパ節転移のある進行がんに対しても,根治治療が比較的容易に計画できるようになった。病巣の進展によっては根治治療を断念せざるを得ない症例にも根治的放射線治療が可能になったことは,長く放射線治療にかかわってきた身としては非常にありがたく,うれしいことである。

図1 両側頸部および腹部リンパ節転移のある進行食道がん症例 両側頸部リンパ節転移があると,従来の放射線治療(3D-CRT)では多くの症例で根治的放射線治療は困難となるが,IMRTにより根治的治療が可能となる。Radixactを利用することにより,腹部リンパ節転移に対してもつなぎ目のない放射線治療が可能となった。

図1 両側頸部および腹部リンパ節転移のある進行食道がん症例
両側頸部リンパ節転移があると,従来の放射線治療(3D-CRT)では多くの症例で根治的放射線治療は困難となるが,IMRTにより根治的治療が可能となる。Radixactを利用することにより,腹部リンパ節転移に対してもつなぎ目のない放射線治療が可能となった。

 

治療計画および治療の高速化オプションVOLO Ultraの導入

また,幸運なことに,当院では全国に先駆けて新しい治療高速化オプション「VOLO Ultra」を導入することができた。これは,治療計画にかかる時間を大幅に短縮する新しいソフトウエアで,従来の治療計画時間を画期的に短縮することが可能である。頭頸部がんは,頸部リンパ節の分布などから複雑なターゲット形状になるため,通常は線量計算に非常に時間がかかる。しかし,VOLO Ultraはいとも簡単に,ほぼ同じ計算結果を従来手法(Classic)の数十分の一の時間で計算する(図2)。
計算時間は部位,ターゲット,リスク臓器などの条件により大きく異なるが,いずれの部位においても従来手法(Classic)との差は歴然である(図3)。計算結果がすぐに出ることから,試行錯誤を繰り返し,より最適化した線量分布を得ることができる。さらに,VOLO Ultraは放射線照射時間の短縮も実現する(図4)。

図2 頭頸部がん症例に対するIMRT 頭頸部は複雑な形状のため,従来の最適化プログラム(Classic)では266分かかる線量計算(a)が,VOLO Ultraを利用することにより,4.3分で同等の線量分布(b)が得られている。 AT=accelerate treatment,0(high compensation)~10(low compensation)

図2 頭頸部がん症例に対するIMRT
頭頸部は複雑な形状のため,従来の最適化プログラム(Classic)では266分かかる線量計算(a)が,VOLO Ultraを利用することにより,4.3分で同等の線量分布(b)が得られている。
AT=accelerate treatment,0(high compensation)~10(low compensation)

 

図3 従来の最適化プログラム(Classic)とVOLO Ultraとの線量計算速度比較 強い強度変調が要求される頭頸部では,VOLO Ultraを使うことによって,1/60程度の計算時間でほぼ同等の計算結果を得ることができた。 AT=accelerate treatment,0(high compensation)~10(low compensation)

図3 従来の最適化プログラム(Classic)とVOLO Ultraとの線量計算速度比較
強い強度変調が要求される頭頸部では,VOLO Ultraを使うことによって,1/60程度の計算時間でほぼ同等の計算結果を得ることができた。
AT=accelerate treatment,0(high compensation)~10(low compensation)

 

図4 オリゴ転移(腰椎)症例に対する定位放射線治療 VOLO Ultraを使うことで,従来の最適化プログラム(Classic)での計算時間(約100分)の約1/20の4分54秒で完了し,放射線治療時間も309秒と約3/4に短縮できた。

図4 オリゴ転移(腰椎)症例に対する定位放射線治療
VOLO Ultraを使うことで,従来の最適化プログラム(Classic)での計算時間(約100分)の約1/20の4分54秒で完了し,放射線治療時間も309秒と約3/4に短縮できた。

 

 

ヘリカルkVCTイメージングシステムClearRTの導入

VOLO Ultraの導入と同時に,オプションのヘリカルkVCTイメージングシステム「ClearRT」も導入した。ClearRTにより,従来のmegavoltage CT(MVCT)での撮影から,kilovoltage CT(kVCT)での撮影が可能となったことから,画質が飛躍的に改善,軟部組織の解像度が良好となり,腫瘍そのものを認識することが比較的容易になった(図5)。同時に,撮影時間も短くなった(図6)。
これらの新しいソフトウエアやハードウエアによって,治療計画から治療開始時期までの間を短くすることができると同時に,位置合わせの時間が短くなり,体動の少ない,より高精度な放射線治療が可能となった。

図5 従来のMVCTとkVCT(ClearRT) との画質の違い 軟部組織の分解能が向上し,診断用CTにより近い画質となった。

図5 従来のMVCTとkVCT(ClearRT)との画質の違い
軟部組織の分解能が向上し,診断用CTにより近い画質となった。

 

図6 従来のMVCTとClearRTとの撮影時間の違い Coarse,Normal,Fineの3つの撮影モードがあるが,撮影時間はいずれのモードにおいてもMVCTよりClearRTの方が短い。

図6 従来のMVCTとClearRTとの撮影時間の違い
Coarse,Normal,Fineの3つの撮影モードがあるが,撮影時間はいずれのモードにおいてもMVCTよりClearRTの方が短い。

 

Radixactを導入することにより,周囲の放射線量を抑えて腫瘍への線量を増加させ,根治的線量の投入を諦めていた部位に対しても,根治的治療が可能となった症例もある。さらに,恩恵は患者だけではなく,病院の収益にも大きく貢献している。

TOP