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2023年8月号

がん放射線治療の今を知る!~最前線の現場から No.7

サイバーナイフ治療(2):体幹部腫瘍に対する主科との連携 ~ライナック2台プラス「サイバーナイフ M6」体制に向けて~

野末 政志(聖隷浜松病院腫瘍放射線科部長)

はじめに

当院では,「TrueBeam STx」(バリアン社製)を筆頭とする高精度ライナック3台体制から,ライナック2台プラスサイバーナイフの体制にシステム変更を行った。近年,高精度・高機能な放射線治療が頭蓋内のみならず体幹部のさまざまな部位にまで求められるようになってくると,高精度とはいえ,汎用ライナックのみでは対応が不十分な状況が生まれ,かつ増加してきた。この問題に適切に対応するために導入された新たな装置がサイバーナイフ,なかでもマルチリーフコリメータ(MLC)を装備した「サイバーナイフM6」である。MLCによって,腫瘍径が大きめの体幹部病変に対して,短時間で高精度に対応可能となった。
一方,サイバーナイフの対象症例は頭蓋内疾患が半数以上を占めると言われているが,当院のような地方病院では,それだけで十分な稼働を確保することは困難である。したがって,体幹部病変への適応も視野に入れた導入を行わなければならない。汎用ライナックが高精度化している中でも,サイバーナイフならではの利点を明らかにして,地域で共同運用していく責任もある。

体幹部病変とサイバーナイフ

サイバーナイフ導入に当たって,カギとなる体幹部の病変は以下の3つである。

(1)前立腺がん
(2)肺腫瘍
(3)肝腫瘍

この3病変に対しては,これまで汎用ライナックで放射線治療を行ってきた。今回,サイバーナイフでの治療に(一部を)切り替えるに当たっては,サイバーナイフ特有の前処置を各診療科に依頼しなければならない。前処置は,手間暇がかかる割には診療報酬上の利点は少ない。したがって,単に治療する装置が変わったのではなく,より有害事象が少なく,しかも短期間での治療であるなど,患者へのメリットを中心とした選択肢とならなければならない。そうでなければ,各診療科の協力は得られない。

1.前立腺がんへの体幹部定位放射線治療における泌尿器科との連携(図1)
当院では,2006年から前立腺がんに対して通常分割の強度変調放射線治療(IMRT)を行ってきた。前立腺内にとどまる病変はもちろん,精囊など前立腺からはみ出る段階まで進行しても対応可能である。効果も高く,晩期の有害事象も少ない半面,治療に約2か月を要するという課題がある。そこで近年,注目されているのが非常に短期間で治療を終えることが可能な体幹部定位放射線治療(SBRT)である。SBRTは,働きながら治療を受けたい患者,送迎者や遠隔地などの理由で通院が困難な患者には,大きな恩恵となる。前処置が必要とはいえ,2か月かかる治療が1週間で終わるインパクトは大きく,ロボット支援手術に並ぶ大きな選択肢となっている。
泌尿器科による前立腺内金属マーカー留置と前立腺-直腸間へのハイドロゲルスペーサ注入は,SBRTに必須の前処置である。前処置により,有害事象の持続期間が短いことが患者のQOLに有益と考えている。
院外からの紹介も泌尿器科が窓口となる。泌尿器科では,手術も放射線治療も同等に患者に提示している。患者希望により,腫瘍放射線科(当科)受診も行って治療方法の相談を行う。最終決定は患者主体で行われている。
定位照射が選択されれば,そこで1泊2日入院での前処置の予約が組まれる。前処置2日目の退院前に当科を受診して,定位照射に対する説明と同意が行われる。そこから約2週間後に計画画像収得,その後2週間程度で治療開始,1週間の通院で治療終了となる。その後,3か月程度の間隔で泌尿器科および当科で経過観察が行われる。短期間で治療可能な前立腺定位照射という選択肢の増加は,患者紹介の点からも影響が大きい。
一方,泌尿器科の負担となるのが前処置だが,実質10分程度で終了する。診療報酬も認められているので,2〜3例まとめて行って効率を上げている。

図1 前立腺定位照射 3個の金属マーカーを追尾して,6軸補正を行っている。

図1 前立腺定位照射
3個の金属マーカーを追尾して,6軸補正を行っている。

 

2.肺腫瘍への体幹部定位放射線治療における呼吸器科(内科/外科)との連携(図2)
当院では,2006年から肺野病変に対するSBRTを行っている。最大の問題点は,呼吸性移動対策である。当初は,呼吸同期照射を多用していたが,現在では深吸気停止照射による肺障害の低減に取り組んでいる。
一方,透視画像で肺野腫瘤影が確認できる場合は,サイバーナイフの追尾照射が有用である。追尾を行いながら三次元定位照射が可能な機器はサイバーナイフのみである。また,肺野腫瘤が確認できない場合でも,肺野内に金属マーカーを刺入して,それを指標に追尾することも可能である。この場合は,気管支鏡での前処置が必要になる。
連携として,原発性肺腫瘍の場合は呼吸器科と当科で経過観察が行われる。腫瘍影が短期で消えないこと,肺臓炎が出てくること,照射の影響でPETでの集積が遷延することなどをよく患者に説明の上,長い目で経過を見ていただくことが重要である。

図2 肺野腫瘤の定位照射 直接肺腫瘤を認識して追尾照射を行っている。

図2 肺野腫瘤の定位照射
直接肺腫瘤を認識して追尾照射を行っている。

 

3.肝腫瘍への体幹部定位放射線治療における消化器内科・肝臓内科との連携(図3)
肝腫瘍に対するSBRTの問題点は2つある。1つは呼吸性移動対策,もう1つは位置合わせのコーンビームCT(CBCT)で腫瘍が同定できないことである。この2つを同時に解決する方法が,肝臓内金属マーカー刺入とサイバーナイフによるマーカートラッキングでの追尾照射である。金属マーカー刺入は肝臓内科に依頼し,超音波ガイド下で行っている。腹部臓器では深吸気停止のメリットはないため,肝細胞がんはもとより,転移性肝腫瘍の場合も金属マーカープラス追尾照射は必須である。
肝細胞がんの場合は,肝臓内科がスケジュールを立てて,1泊2日のマーカー刺入日まで決定する。2日目に当科を初診して,説明と同意の下,計画画像の撮影を行う。約2週間の期間をおいて4~10回の治療が行われる。転移性肝腫瘍の場合は最初に当科初診となるため,その日に合わせて消化器内科も受診という段取りとし,約1週間後に金属マーカーが刺入される。いずれの場合も患者の受診回数を減らすために,両者の了解の上の連携となっている。
肝臓病変に対しては,焼灼という選択肢もある。非常に効果的ではあるが,門脈や下大静脈などの太めの血管,胆囊や消化管・横隔膜などの危険臓器が近接した場合には重篤な有害事象のリスクが高く,腫瘍部位によっては焼灼用プローブの刺入がそもそも困難である。その点,放射線治療はいずれにも対応可能である。

図3 肝臓の定位照射 肝臓内の金属マーカーを追尾して治療を行っている。

図3 肝臓の定位照射
肝臓内の金属マーカーを追尾して治療を行っている。

 

最後に

SBRTは,現在最も注目されている治療方法である。今回挙げた3病態のみならず,骨転移やリンパ節再発などのうちの「オリゴ病態」に対する放射線治療への期待が高まっている。限られた病巣に対してではあるが,より効果的に,より短期間で,より有害事象少なく行うことが何よりも求められている。この点,サイバーナイフは,金属マーカーも含めて位置精度が高く,三次元照射で線量集中性が高く,生理的移動病巣に対しての追従性が高いなどの特長を持つ。
汎用ライナックとは一味違った特殊機器との認識を持ってはいるが,この特殊機器が多くの病態に対応する時代になってきたと考えている。この有用性を生かすためには,放射線治療部門のみならず,関連する診療科の協力をいただいて,より簡便に患者に提供したい。

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