VARIAN RT REPORT

2024年5月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.21

頭頸部領域におけるART研究会(実臨床編)

「頭頸部領域におけるART研究会」では,放射線治療のエキスパートの先生方が集結し,頭頸部領域におけるETHOS TherapyおよびHyperSightを用いた適応放射線治療(adaptive radiotherapy:ART)に関して,検討および討論がなされた。今回は,実臨床において頭頸部癌に対してETHOS Therapyを使用した経験を3演題報告する。
開催日:2023年9月23日 座長:吉村 通央(京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学)

頭頸部腫瘍に対するETHOS Therapyの使用経験
髙木 正統 (九州大学病院放射線科)

髙木 正統​ (九州大学病院放射線科)

頭頸部領域の放射線治療は,最大35回程度と照射期間が長く,粘膜炎による経口摂取量低下により痩せが生じることから,リプランが必要となることがある。特に術後照射例においては,浮腫による体輪郭の変化が大きい。そして,予防照射領域のため照射範囲が広くなることが多く,頸椎アライメントの再現性の問題から,全体の位置を正確に合わせることが困難な場合もある。これらのinter-fractionalな問題へ対応するべく,ETHOS TherapyによるARTを行った症例経験を報告した。
まず,中咽頭癌の術後で左ルビエールリンパ節に残存病変のある70代男性の症例では,術後に重度の浮腫を有していたが,早期治療開始の必要性から,70Gy/35回の放射線治療単独でARTを行うことになった。17回目照射時には頸部腫脹の増悪と喉頭浮腫の改善という多様な体輪郭の変化を認めた。この時,scheduled planでは高線量領域が出現し,3D-dose maxは130.8%まで上昇していたが,adapted planでは高線量領域が消失し,3D-dose maxは許容範囲の109.7%まで低減した。また,scheduled planではPTV D95%が76.3%,PTV D98%が58.9%,CTV D95%が68.8%と標的をカバーできていなかったが,adapted planでは,いずれもほぼ100%まで改善した。本症例は体輪郭の大きな変化を伴っていたが,初回CBCT画像撮影開始から照射終了まで約20分と許容可能な時間内に治療することができた。
次に,シスプラチン併用で根治照射(70Gy/35回)を行った中咽頭癌の60代男性では,徐々に痩せが生じ,scheduled planでPTV D98%が90%まで低下したが,PTV D95%およびCTVは低下しなかった。当院ではCTVに5mmのマージンを追加してPTVを作成している。リスク臓器(OAR)に関しては,耳下腺のDmeanはscheduled planとadapted planで同等であったが,脊髄に3mmマージンを追加した計画リスク臓器体積(PRV)のDmaxはscheduled planで低下した。しかし,adapted planではreference planと同等の値を示した。3D-dose maxに関しては,scheduled plan で約120%まで上昇したが,adapted planでは低減させることができた。
頭頸部の即時ARTは,OARの非剛体画像レジストレーション(DIR)に関しては満足できる精度であったが,体輪郭のDIRの精度については注意が必要である。アーチファクトを体輪郭として抽出してしまい,皮膚に高線量領域が出現したり,途中で痩せが生じた場合にマスクの外側まで体輪郭と誤認識し,空気の部分に高線量領域が現れたり,体の一部が認識されず体輪郭に含まれないという例を経験した。問題は,このような場合にDIRにおいて手動で体輪郭の編集ができない点である。対応策として,体と誤認識される部分のマスクを切除するか,reference planを作成し直す必要があった。
ETHOS TherapyによるARTは,治療期間中に頸部腫脹が生じた場合に線量改善への貢献が大きかった。今後はPTVの縮小など,多くの症例で即時ARTの恩恵を受けられる条件を検討する必要があると考える。

ETHOS Therapy─日常臨床で感じたETHOSの強み・弱み
仮屋 圭佑 (鹿児島大学病院放射線科)

仮屋 圭佑​ (鹿児島大学病院放射線科)

鹿児島大学病院におけるETHOS Therapyの臨床経験に基づいて,頭頸部癌における同治療の強みと弱みについて検討した。
まずETHOS Therapyの強みは,標的が毎回描出されることで,CBCT画像撮影時と照射時の体のずれが最小限となり,セットアップマージンを小さくできることである。実際に,体のねじれによってずれることの多い予防リンパ節領域は,DIRで手直しがほぼ不要であった。
体型や腫瘍の変化に対応しやすいという点も強みである。治療計画時から照射時までに痩せが生じ,体厚が15mm程度変化した症例では,DIRで予防領域が描出されるため手直しの必要がなかった。また,腫瘍が縮小した場合は,GTVが自動で修正され,修正が足りない場合には手動で編集することができる。顔面皮下に複数標的があり,わずかな位置のずれが生じた症例では,scheduled planにおいて線量分布および高線量領域にずれが認められたが,adapted planではDmaxが低減され,標的のcoverageも良好であった。照射前にscheduled planとadapted planのいずれかを選ぶ場面では,自信を持ってadapted planを選ぶことができている。
続いて,ETHOS Therapyの弱みについて考察した。まず,体輪郭の自動コンツーリングである。急激な腫瘍縮小時の体輪郭変化への対応が不十分であり,鼻翼部などの軟骨や空気陰影部の過小描出,そして金属アーチファクト部分の体輪郭設定が不正確になることがある。いずれもon-couch adaptationにて修正できないため,治療計画CT画像を再撮影して,リプランが必要になることがあった。
2つ目は,小体積標的の描出能と縮小時の対応である。CBCT画像の画質の問題も関係すると考えられるが,1cm未満のPET陽性リンパ節病変の自動コンツーリングがずれることがある。手動で修正する際には,CTVマージンでカバーされるように意識する必要があるが,縮小しすぎた病変は高線量照射領域から外す検討も必要である。
3つ目は,体輪郭外に照射野中心が設定されることがある点である。右上顎洞に巨大腫瘍と右頸部リンパ節に病変,および左側に疑われる小結節があったため,両側頸部を予防リンパ節領域として設定した症例では,自動設定により体輪郭の外側に照射野中心が設定されてしまった。この場合はEclipseで立案した治療計画をETHOS Therapyにインポートして最適化することで対応した。
将来的には,CBCT画像の画質が向上し,処理がさらに高速化・高精度化されれば,スタッフの負担軽減,質の均てん化につながるだろう。そしてETHOS TherapyによるARTの結果の検証およびエビデンスの蓄積が進むことを期待する。

頭頸部癌に対する適応放射線治療の初期経験
中島 良太 (京都⼤学医学部附属病院放射線治療科)

中島 良太 (京都⼤学医学部附属病院放射線治療科)

京都大学医学部附属病院においてETHOS Therapyを用いたARTを経験した2例を紹介した。
1例目は,右舌癌(cT4aN2bM0)の73歳男性で,深達度は26mm,舌根に進展があり,腫瘍に近接した金冠による金属アーチファクトの影響が懸念された。脳出血の既往から右半身麻痺や失語を有するため,手術および根治的放射線治療は困難と判断し,緩和的定位放射線治療(40Gy/10回)を施行した。頬粘膜の線量低減の目的で,腫瘍と頬粘膜の間にガーゼを挿入して治療を行った。原発巣のadapted planとscheduled planの線量分布を比較すると大きな違いはなかったが,頸部リンパ節の線量分布を見ると,adapted planではPTVの上に95% isodoseラインがほぼ重なっているのに対して,scheduled planでは95% isodoseラインが少し広がっていた。しかし,reference plan,scheduled plan,adapted planのPTV D95%およびDmaxは同等の値であった。原発巣のGTVおよびCTVに関しても,各々のプランでほぼ同じ値を示した。リンパ節のGTVは,scheduled planのDmaxが他に比べて1,2%上昇した程度で,OAR(脊髄,耳下腺)の線量も3つのプランで大きな違いはなかった。
本症例は,総合的にscheduled planで照射しても問題ない例であった。現状,CBCT画像上でのDIRによるリンパ節のコンツールに修正が必要であった点は,スタッフの負担の点でも課題と感じた。しかし,金属アーチファクトによるコンツール修正は,慣れている医師であれば特に問題ないだろう。リンパ節の標的の修正が必要であったため,標的およびOARの修正に8分弱を要し,入室から退室までの所要時間は30分であった。
続いて2例目は,右下顎歯肉癌(cT 4aN2bM0)の85歳男性で,右下顎拡大区域切除,右大胸筋皮弁再建,および両側頸部郭清をされ,術後病理にてリンパ節転移に節外浸潤を認めたために術後放射線治療が必要とされた症例であった。高齢により,短期間での術後放射線治療を希望されたため,定位的な適応放射線治療(48Gy/12回)を実施した。Scheduled planでは体表面に高線量領域が現れ,PTVのDmaxが117%を示した。この原因は,reference plan時(治療計画CT撮影時)よりscheduled plan時(放射線治療実施時)において頬に浮腫が生じたため,もともと空中飛びであったところにPTVが入り込み,体表面に高線量領域が現れたと考えられる。Adapted planでのPTV Dmaxは107%であった。しかし,初回のadapted planにおいて,皮弁と皮膚の間隔が広くなり,体輪郭が異常に広がる現象が確認された。これはCBCT画像のアーチファクトが原因であった。Iterative CBCTをオフにしても改善されず,アイソセンタが体表面に近いために起こったアーチファクトと考えられた。このアーチファクトのために,PTVと体表面の間の皮膚や皮下組織が拡大してしまった。しかしながら,PTV輪郭に大きな変化がなかったため,実臨床上は照射しても問題なかった。最終的には,体軸中心にCBCT撮影中心をずらすことでアーチファクトが消失し,照射することができた。術後照射でありGTVがないために,コンツールの修正時間が非常に短く,入室から退室までの所要時間は23分であり,本症例は体型変化があったためARTが非常に有用であった。

ETHOS 適応放射線治療オンラインプランニングシステム:医療機器承認番号 30300BZX00075000
ETHOS 適応放射線治療マネージメントシステム:医療機器承認番号 30300BZX00076000
TrueBeam 医療用リニアック:医療機器承認番号 22300BZX00265000
放射線治療計画用ソフトウェア Eclipse:医療機器承認番号 22900BZX00265000

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