VARIAN RT REPORT

2025年11月号

人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.30

TrueBeam HyperSightの臨床使用経験

宮浦 和徳*1,2,3/藤井 智希*4/加藤 正子*2,3/伊藤 芳紀*2,3(* 1 昭和医科大学大学院保健医療学研究科医学物理教育分野 * 2 昭和医科大学医学部放射線医学講座放射線治療学部門 * 3 昭和医科大学病院放射線治療科 * 4 昭和医科大学病院放射線技術部)

導入の背景と技術的特徴

昭和医科大学病院では,2025年6月より高精度放射線治療のさらなる追究のため,臨床使用では本邦初となる「TrueBeam HyperSight」を導入した。このシステムは,バリアン社のフラッグシップマシンである「TrueBeam」に,次世代型イメージングソリューション「HyperSight」を搭載し,さらなる進化を遂げたモデルである。最大の特長は,広い撮影領域の高解像度のコーンビームCT(CBCT)を,より短時間かつ低線量で取得することを可能にしていることである。従来のTrueBeamと比較して,1.5倍速でのCBCT撮影を実現している。これにより,患者のストレスや不安を軽減し,体動によるモーションアーチファクトを低減して,より鮮明な画像取得を行うことが可能となる。さらに,散乱線補正付逐次近似再構成技術「iterative CBCT(iCBCT)」を実装することで,画像ノイズやアーチファクトが大幅に低減され,高画質画像による高精度な画像位置照合が可能となっている。
図1に,当院のTrueBeam HyperSightの外観を示す。ガントリの中央にHyperSightのロゴが追加された。

図1 昭和医科大学病院に導入されたTrueBeam HyperSightの外観

図1 昭和医科大学病院に導入された
TrueBeam HyperSightの外観

 

受入試験とコミッショニング

装置の搬入が2025年1月中旬,その後設置と調整を行ったが,もろもろの事情によりビーム出力が可能となる日程が予定より遅延して,装置のコミッショニングは4月下旬より開始となった。ただ,熟練のインストールエンジニアによる調整により,システム性能を最大限に発揮でき,受入試験とコミッショニングは,スムーズかつ十分に満足できる結果を得ることができた。
HyperSight CBCTのコミッショニングは,CT評価ファントム「Catphan604」(Phantom Laboratory社製)による画質・分解能・均一性・スライス厚の測定,CT値-相対電子濃度変換用ファントム「Advanced Electron Densityファントム」(Sun Nuclear社製)によるCT値の測定を行い,治療計画用CT「SOMATOM go.Open Pro」(シーメンス社製:Sim-CT)とほぼ同等の結果が得られ,高画質かつ安定したCT値となっていることが確認できた。従来CBCTの課題であったCT値の不均一が改善され,HyperSight CBCTがSim-CTと遜色ない結果であり,線量計算を実施するイニシャル治療計画用画像の可能性を大いに実感した。

臨床的メリット

1.体幹部定位照射(SBRT)
当院では,はじめにSBRTに対するHyperSight CBCTの運用を開始した。高速撮影が可能となり,自由呼吸下でも従来CBCTより呼吸性移動によるモーションアーチファクト低減が顕著であり,画像誘導放射線治療(IGRT)の精度が大幅に向上した。また,広い撮影領域により体幹部のねじれや傾きを容易に観察できるようになった。

2.椎体定位照射
次に,椎体定位照射に対してHyperSight CBCTを適応した。高分解能により標的となる椎体内の肉眼的腫瘍体積(GTV)の視認が容易となり,リスク臓器である脊髄の観察も行えるようになったことで,より高精度な画像位置照合精度が担保される。今後,セットアップマージン縮小の再考を行う予定である。
図2に,実際の HyperSight CBCTを示す。で示したGTV(緑色のライン)が鮮明に視認可能であることがわかる。

図2 椎体定位照射におけるHyperSight CBCT画像 (ストラクチャー含む,GTV=緑色のライン)

図2 椎体定位照射におけるHyperSight CBCT画像
(ストラクチャー含む,GTV=緑色のライン)

 

3.子宮頸がんに対するIMRT
子宮頸がんの強度変調放射線治療(IMRT)においては,IGRTによる位置確認がきわめて重要となる。日々の子宮の動き(前屈や後屈)や,直腸や膀胱の内容物の貯留確認,そして,日常的な体の動きをとらえ適切なIGRTの実施が必須である。HyperSight CBCTでは,腹腔内のガスによるアーチファクトが低減されることで子宮を鮮明に描出でき,さらに,短時間の撮影により,腸管やその内部のガス・貯留物の移動による影響を最小限に抑えることが可能になったと思われる。こちらも広い撮影領域の恩恵は大きく,子宮からリンパ節領域までを十分に含んだ画像取得が行えるようになった。
また, CBCT画像再構成にメタルアーチファクト低減(MAR)アルゴリズムが搭載されたことも大きなメリットである。このMARアルゴリズムは,骨盤内に留置される金マーカーのような小さな金属だけでなく,人工骨頭の金属インプラントから発生するアーチファクトも大幅に軽減することが可能となる。従来のCBCTでは,金属アーチファクトが広範囲にわたって発生し,標的や周囲の臓器が不明瞭になり十分な画像照合が困難であったが,HyperSight CBCTではSim-CTとほぼ同等の鮮明な画像が取得でき,正確な画像照合が可能となった。
図3に,人工骨頭を含む骨盤領域のHyperSight CBCTを示す。明瞭な画像による位置照合により,標的の正確な線量担保と,小腸など周囲の正常組織への線量を最小限に抑えることができ,急性期および晩期合併症のリスク低減が図れると期待できる。

図3 金属インプラント(人工骨頭)が挿入された子宮頸がんにおけるIMRT実施時の HyperSight CBCT画像(ストラクチャー含む)

図3 金属インプラント(人工骨頭)が挿入された子宮頸がんにおけるIMRT実施時の HyperSight CBCT画像(ストラクチャー含む)

 

今後の展望

1.適応の拡大
当院は,現在,定位手術的照射(SRS)のソリューションである「HyperArc」の臨床開始に向け準備中であるが,多発性脳転移症例においてHyperSight CBCTの恩恵は大きいことが予想される。短時間かつ高分解能の画像照合によりマージン設定の縮小が見込まれる。なにより,治療時間が短縮することでタイトなシェルで固定されている患者の負担が軽減されることは,非常に大きなメリットである。
また,HyperSight CBCTによる,マーカーを用いた肝臓や横隔膜に近い肺腫瘍,膵がんに対しても4D-CBCTを活用し,安全かつ効果的なSBRTも積極的に行っていく予定である。

2.「RapidArc Dynamic」との相乗効果
今後,当院では「RapidArc」がさらに進化した,次世代の高精度放射線治療ソリューション「RapidArc Dynamic」の導入が予定されている。HyperSightによる高画質かつ短時間での位置照合に加えて,RapidArc Dynamicによって高精度かつ効率的に線量集中性を高めることで,高精度放射線治療における治療時間短縮と安全性担保の両立が可能となり,患者負担軽減と治療効果の向上が期待される。

3.人材育成
HyperSight CBCTにより,より高精度かつ自由度の高い技術提供が可能となる。このため,専門的知識・技術を有した人材育成と配置が必須であると考えられる。新しいシステムの習熟には,チーム全体のトレーニングが不可欠であり,ワークフローの更新も必要である。今後,この新たな技術を活用した臨床データの解析も望まれる。

おわりに

当院におけるTrueBeam HyperSightの臨床使用経験では,高精度放射線治療の新たな可能性が示唆された。HyperSight CBCTとRapidArc Dynamicの組み合わせは,治療の精度,安全性,効率性を飛躍的に向上させ,患者と医療従事者の双方に大きなメリットをもたらすことが期待される。今後も,この革新的な技術を最大限に活用し,治療成績向上に貢献していく所存である。

〈謝辞〉
TrueBeam HyperSightにかかわる執筆の機会を提供いただきました,株式会社バリアンメディカルシステムズ関係各位に感謝申し上げます。

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