VARIAN RT REPORT
2025年3月号
人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.26
HalcyonによるVMAT-TBIの臨床経験
大賀 才路(国立病院機構九州医療センター放射線治療科)
はじめに
全身照射(total body irradiation:TBI)は,移植治療の前処置として重要な役割を果たしている。これまでTBIにて一般的に実施されてきた,照射口と患者との距離を長くとることで照射野を広くして治療を行うlong source-to-surface distance(long SSD)法は,各部位の線量の把握や調整が困難であった。一方,最近国内でも実施施設数が増加してきたvolumetric modulated arc therapy(VMAT)-TBIは全身を数か所に分割し,各分割部位を高精度放射線治療であるVMATにて照射する治療法である。VMAT-TBIは治療前に治療計画装置にて全身の線量分布を作成するため,各部位の線量を把握可能であり,また,臓器の線量低減や腫瘍残存部の線量増加なども可能である。今回,このVMAT-TBIをバリアン社製「Halcyon」にて実施したので,その臨床経験を報告する。
症例1
20歳代,男性,T細胞性急性リンパ性白血病の再発に対して,同種造血幹細胞移植の前処置としてTBI 12Gy/6Fractions(Fr)(2Fr/日)を実施した。
患者固定は全身用段ボールベースに「Vac-Lok患者固定クッション」(Vac-Lok:CQ Medical社製)を頭尾側に2個並べ,頭部はシェル,体幹部および下肢はVac-Lokにて固定を行った。患者固定時には,全身は可能なかぎり水平にし,上肢は手指を伸ばして体幹部横にくっつけ,下肢の開きは無理のない程度で狭くするようにした。
頭部~体幹部領域と下肢領域でおのおのプランを作成するため,計画CTはそれぞれの領域で撮影した。CTはシーメンス社製PET/CT「TruePoint Biograph16」のCT画像を使用し,2mmスライス厚,2mm gapで撮影した。CT撮影時のセットアップ用の正中線や水平線は,シェル,患者体表,Vac-Lokにマークした。頭部~体幹部領域はhead firstで頭部から膝下までの画像を取得した。下肢領域は頭尾側方向を反転させ,位置照合後,feet firstで足指から骨盤上縁までを撮影した。
2プランの接合部はセットアップエラーによる過線量を考慮して大腿部とした。治療計画はbodyの輪郭描出後,体表から3mm内側の領域でorgan at risk(OAR)を3~5mmマージンで切り取ったものをplanning target volume(PTV)とした。水晶体,肺,腎臓をOARとした。全身各部位に効果的な最適化指示を行うため,頭部~体幹部領域は図1のように20~24cm間隔でPTVをPTV1~5と5分割,さらに,PTV2~4は正中,右端,左端と3分割した。プラン接合部のPTV5は,2cmごとに7分割した。下肢領域のPTVも大腿のプラン接合部,足指部分,それ以外と3分割し,大腿のプラン接合部はPTV5と同様に7分割した。
また,治療中の体動などを考慮してbody周囲に10mmのvirtual bolus(VB)を作成し,PTVと同様にVB1〜5と5分割した。VB内が均一な線量分布になるように,その表面に3mmのbolusを作成した。
プランは下肢領域を作成後,下肢領域のプランをbase dose planとして頭部~体幹部領域のプランを作成した。下肢領域は20cmごとにisocenter(IC)を4か所設定し,各ICに2アークの照射野を作成した。接合部は2Gyから0Gyまで分割束間で線量低減を段階的に設定した。頭部~体幹部領域はICを5か所設定し,各ICの照射野数は頭部2門,上部胸部6門,下部胸部・腹部4門,骨盤部2門,接合部2門とし,最適化を行った(図2)。表1に,線量の目標値を示す。肺の平均線量率はトモセラピーによる報告の33.3cGy/minを参考に,肺野にかかる照射野を上部胸部6門と下部胸部・腹部のうち2門の計8門とした1)。Halcyonの照射時間は最短30秒/周なので,8門を肺に照射する時間は240秒となる。肺平均線量を8Gy/6回まで落とせれば,平均肺線量率は33.3cGy/min程度となる計算である。治療計画時間は輪郭描出に5時間,最適化 9回,1回の最適化計算4〜5時間で,合計40〜50時間かかった。
実際の治療は,各ICでcone beam CT(CBCT)を撮影し位置照合後,照射を実施した。位置照合は椎体合わせを基本とした。TBIの一連のプロセスを治療当日にスムーズに実施するため,治療前日に患者を治療台に乗せ数か所のICでCBCTを撮影し,位置照合のシミュレーションを行った。各ICでの位置照合の誤差が問題となるため,治療計画時に各ICが頭尾側3mmずれた場合の線量変化をあらかじめ確認しておいた。craniospinal irradiation(CSI)の報告では,IC 3mmの誤差で脊髄線量誤差が10%との報告があったが2),本症例では最大4.4%の誤差程度であった。入室から退室までの全治療時間は70分であった。
![]() 図1 症例1の治療計画 |
![]() 図2 症例1の線量分布図 |

表1 症例1における線量の目標値
症例2
10歳代,女性,再生不良性貧血に対して,同種造血幹細胞移植の前処置としてTBI 2Gy/1Frを行った。
患者固定や治療計画方法は症例1と同様とした。本症例は,再生不良性貧血で若年女性でもあったため,卵巣線量低減を行った。計画CT撮影は,子宮の動きによる卵巣の位置移動を抑制するため排尿後に行った。卵巣周囲2cmを線量低減域としてPTVから切り取った。卵巣線量は0.4Gy/Frまで低減した3)(図3)。本症例ではTBI実施時,CBCTにて両側卵巣が線量低減域に確実に入っていることを確認することができた。

図3 症例2の線量分布図
HalcyonによるVMAT-TBIの利点・欠点
従来からのlong SSD法によるTBIは全身各部位の線量把握は困難であったが,VMAT-TBIは治療前に全身の線量分布を作成し,その治療計画内容に従って照射するため,全身各部位の照射線量の把握が可能である。これにより,治療効果や有害事象と照射線量との関連性が評価可能となる。また,VMAT-TBIは,高精度放射線治療であるVMATにより放射線を照射するため,各部位の線量調整が高い精度で正確に実施できる。周囲組織線量を維持しつつ目的部位の線量増加や低減ができるため,治療効果を落とさず有害事象の低減が可能となる。
また,long SSD法によるTBIは照射口と患者の距離を長くとるため,実施に際しては広い治療室が必要である。しかし,VMAT-TBIはVMATを実施可能な治療装置を設置できる広さの治療室があればよく,広い治療室は必須ではない。建設コストも低く抑えることができる。これらの点では,VMAT-TBIは多くの施設で実施可能な治療法である。VMAT-TBIによって,TBIから移植までの一連の治療を自施設で受けられれば,他院への移動や入退院による病状への影響も少なくなり,患者負担軽減や治療効果改善にもつながると考えられる。
Halcyonは,位置照合時のCBCT撮影時間や1アークの照射時間が圧倒的に短い。TBIは全体の治療時間が60分以上と長い治療で,VMAT-TBIは各ICなどで位置照合を頻繁に実施する治療法である。そのため,CBCT撮影時間や照射時間の短縮による全治療時間の短縮は,患者負担軽減とセットアップエラー軽減の観点から有用と考えられる。
しかし,HalcyonによるTBIの欠点は,治療計画時間が長いことである。これにより,短期間に複数例のTBI実施や急な移植日程に対応したTBI実施は難しいと考えられる。解決策としては,治療計画装置のGPUメモリを増加して最適化計算速度を速めることや,治療計画のプロセスをテンプレート化することで,全治療計画時間を短縮させることなどが考えられる。また,全治療計画を一人で実施するのは負担が大きいため,複数人で治療計画内容を分担することも一つの方法と考えられる。
もう一つの欠点は,各ICでの位置照合や頭尾側入れ替え後の位置照合時に誤差が生じることである。そのため,治療計画時にICが頭尾側3mmずれた場合の照射線量の変化を把握するようにしている。現時点では問題となる過線量や過少線量は生じていない。しかし,再現性のある高い患者固定精度や厳密な位置照合の実施は,より良いVMAT-TBI実施には不可欠である。
今後の展望
TBIは,VMAT-TBIの登場によって,治療部位の線量確保とOARの線量低減が同時に実施可能となった。今後はこの治療コンセプトをさらに進化させ,治療部位をより絞ったtotal marrow irradiation(TMI)やtotal marrow / lymphoid irradiation(TMLI)といった治療が増えることが予想される。TBIにおいても治療に伴う患者負担の軽減が加速される時代に入るわけであるが,Halcyonには短い位置照合時間や照射時間という特性を生かして,より患者負担の少ないTBIの提供が期待される。
●参考文献
1)中村和正, 他 :トモセラピーによる全身照射の疑問点と文献的考察. 臨床放射線, 64(8): 1041-1047, 2019.
2)Matsumoto, K., et al. : Volumetric Modulated Arc Therapy Planning for Craniospinal Irradiation With a new O-ring Linac. Cureus, 15(3): e36493, 2023.
3)Akahane, K., et al. : Dosimetric evaluation of ovaries and pelvic bones associated with clinical outcomes in patients receiving total body irradiation with ovarian shielding. J. Radiat. Res., 62(5): 918-925, 2021.