VARIAN RT REPORT

2025年11月号

Special Interview 1台で高精度放射線治療を効率的に提供するHalcyonで,多くの患者に質の高いケアを実現

九州医療センター 大賀才路先生

2023年に株式会社バリアン メディカル システムズ(以下,バリアン社)のHalcyonを導入し,数年の運用経験を経た九州医療センターの大賀才路先生に,Halcyonの導入背景から今後の展望に至るまでをうかがった。Halcyonを1台で運用する場合の活用方法に関しては興味深いメッセージをいただいた。(2025年7月15日取材)

九州医療センター 大賀 才路 先生

九州医療センター 大賀 才路 先生

 

Q.九州医療センターでHalcyonの導入を決めた理由を教えて下さい。

これまで当センターでは,以前の汎用型放射線治療装置では高精度放射線治療が困難であったため,高精度放射線治療の実施件数が少なく,件数を増やすことが課題でした。そのため,更新に際しては,高精度放射線治療が可能な装置であることが必須条件でした。また,既存の放射線治療室へ導入予定であったため,遮蔽の追加工事等の問題が少ないことも求められました。さらに,装置自体の費用が抑えられること,工事開始から治療開始までの期間が短いこと,そして機能的な面では患者のスループットが良好であることが考慮された結果,Halcyonが選択されました(図1)。

図1 九州医療センターに導入されたHalcyon

図1 九州医療センターに導入されたHalcyon

 

Q.Halcyon導入に際して,実際の工事や搬入プロセスはいかがでしたか? 

既存の治療装置撤去からHalcyon設置および稼働まで4か月と,短期間で治療を再開することができました。設置後の線量測定に関しては,エネルギーが1種類で,Representative Beam Data(RBD)がすでに入力されており,実際の測定値と乖離がないかを確認するだけなので,診療放射線技師の負担も少なくて済みました。また,早く治療を開始することができたため,治療件数の早期回復につなげることができ,当センターの年間の収益減を抑えることができました。工事期間中は,放射線治療適応患者を他院へ紹介しなければならず,医師および患者にとって負担となりますが,その期間が短かったため,そのストレスを最小限に留めることができたのではないかと思っています。

Q.実際のHalcyonの設置面積やエネルギー使用量はいかがでしたか?

ガントリや治療台の可動範囲を含めてもHalcyonの設置面積とほぼ等しく,他の位置照合システムとの統合がほぼ不要であるため,少ない設置面積で済みます。また,エネルギー使用量や冷却水の使用量は通常のCアーム型放射線治療装置の半分程度で,経済効率に優れています。

Q.実際にHalcyonを使い始めて,満足したことや意外だったことはありますか?

一番は,患者のスループットが非常に良いため,治療装置を実際に扱う診療放射線技師からの評判が良いことです。当科の1日の治療件数は40〜50件と多いのですが,就業時間内に治療を終了することができています。もう一点は,治療計画において,ガントリと患者の干渉をほとんど考慮しなくて良い点です。強度変調回転照射(VMAT)の照射野アーク数も多数のパターンがテンプレートに設定されているため,選択しやすく,スムーズに治療計画ができるようになっています。

Q.先生のご経験から,Halcyonの主な利点は何だと思いますか?

まずは,コーンビームCT(CBCT)撮影時間は最短17秒,治療時間は1アークあたり最短30秒,治療室入室から退室までの所要時間は平均10分以内と短時間で照射が可能であるため,多くの症例を就業時間内に治療できることです。2点目は,ガントリと患者の干渉を気にする必要がないことです。これにより,点滴を必要とする患者の場合に,点滴台をHalcyonのリング型ガントリ近傍まで置くことが可能となりました。3点目は,治療台が低い位置まで下降するため,容易にベッドや車椅子から移乗でき,安全面でも安心です。

Q.Halcyon導入によって日常の治療ワークフローに変化はありましたか?

高精度放射線治療を得意とするHalcyonの導入により,大半の症例が高精度放射線治療に移行し,当センターの目標を達成することができています。高精度放射線治療になったことによって,医師による治療計画時間が少し長くなった印象がありますが,Halcyonでは毎回CBCTで位置合わせを行うため,アイソセンタや照射野のマーキングが必要なくなり,実際に操作をする診療放射線技師の負担が軽減されました。また,高精度放射線治療が増加したことで,検証を実施する機会が増えましたが,検証時間は短時間であるため,特に大きなストレスではありません。

Q.患者にとってHalcyonで治療する利点は何だと思いますか?

全体の治療時間が短いことが大きな利点だと思います。また,治療台が低い位置まで下降するため,中枢神経病変で下肢麻痺や脱力のある患者,または緩和照射の必要な状態の悪い患者でも治療台への移乗が比較的安全であることがメリットだと考えます。また,100cmの大きなリング型ガントリなので,中に入った時の圧迫感は少ないでしょう。治療中の音が非常に静かであることから,照射中に恐怖心を与えることは少ないのではないかと思います。

Q.Halcyonの効率的なワークフローは,患者ケアの質などにも影響していますか?

全体の治療時間が短いため,次の患者の待ち時間を少なくすることができます。そうすると,治療スタッフの時間的余裕が得られ,例えば膀胱蓄尿が必要な前立腺がん患者において,膀胱内に尿量を十分に溜めたことをしっかり確認した状態での治療が可能となります。また,照射中の体動による影響も少なくなるため,結果的に治療効果にも影響する可能性があります。Halcyonは,効率的に治療ができるからといって治療の質が悪くなるのではなく,むしろ患者ケアに時間を割くことができ,質の高いケアの提供につながっていると感じています。

Q.Halcyon導入によって,可能になった治療法などはありますか?

導入当初は,VMATによる全身照射(TBI)は,Halcyonでは治療計画が非常に複雑であると聞いていたため,他院への紹介を依頼していました。しかし,院内の強い要望を受け,HalcyonでVMAT-TBIを実施することになりました。この方法は,従来のlong source-to-surface distance(long SSD)法とは異なり,各部位の線量の把握が可能で,リスク臓器には線量低減を,治療部位には十分な線量の確保ができ,効果的な治療が実現できています(図2)。

図2 VMAT-TBIの線量分布

図2 VMAT-TBIの線量分布

 

Q.現時点で,Halcyonの信頼性や安定性について,どう評価されていますか?

Halcyonは装置の不具合が起こりにくい印象です。当センターでは治療開始してから連続500日間も連続稼働が可能でした。また,実際の治療精度の面においても,標的部位に目的線量を確実に照射できており,安定性および信頼性の高い装置だと評価しています。

Q.Halcyon導入を検討している他の医師に対して,どのようなアドバイスをされますか?

高精度放射線治療を多く提供する予定の施設にとって,Halcyonは目的に適う治療装置だと思います。もしHalcyon 1台体制で運用する場合,三次元原体照射(3D-CRT)を行う際は,6MVのFlattening Filter Free(FFF)で照射することになり,深部病変に対しては多門照射を行う必要があります。また,Halcyonは電子線を使用できないため,体表近くの照射の際は,ボーラスとVMATで対応するなど代替方法を検討することになります。また,VMAT-TBIの治療計画に多少時間を要しますが,照射部位の線量評価が可能などの利点もあります。

Q.今後Halcyonを使用していく中で,予定していることはありますか?

Halcyonは,即時適応放射線治療ETHOS Therapyへのアップグレードが可能であり,これは非常に大きなメリットだと思います。さらに当センターでは,わずか6秒でCBCTが撮影でき,画質だけでなくCT値の精度が向上したバリアン社のイメージングソリューションであるHyperSightのインストールを予定しています(2025年7月時点)。これにより,CBCTを用いたオフライン適応放射線治療が可能になります。このように,将来のアップグレードパスが充実している点にも大いに期待しています。

Halcyon 医療用リニアック:承認番号 22900BZX00367000
放射線治療計画用ソフトウェア Eclipse:承認番号22900BZX00265000

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